何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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レヴァークーゼンに泊まる。〈二泊目〉
目覚めたのは朝、6時半ごろ。窓際のベッドで眠っていたので、布団にもぐったまま、窓から外の様子が見えた。10月下旬ともなると日の出が遅く、窓の外はまだほんのりと暗かった。それでも、遠くにたなびく煙突の煙がはっきりと見える。その煙を見た瞬間「私は今、レヴァークーゼンに来ているんだ」と思い出した。
そしてすぐに布団をはいで飛び起きた。いつもは朝、目覚めてもしばらくは布団の中でぐずぐずしているくせに、旅行中だけは早起きだ。だってせっかくレヴァークーゼンに来ているのに、ぐずぐずしていたらもったいない。
ベッドの上でごそごそと着替えているうちに、次第に窓の外が明るくなってきた。澄みきった早朝の空気の中に、昨夜見た時よりもくっきりと、レヴァークーゼンの街並みが浮かびあがってきた。


視線を右にずらすと、とんがり屋根の住宅街が広がっていた。どの家の屋根もレンガ色をしているのは、あらかじめ色調を合わせて建てられているからだろうか。統一感のある美しい街並みを、色づき始めた紅葉がさらに引き立たせていた。

左に見えるのは、駅前の高層マンション。日本だと、駅前のこうしたマンションは利便性から人気があるが、ドイツ人はマンションに住むことをあまり好まないとか。確かにこうして見ると、一応屋根と壁の色を他の家に合わせているものの、この街並みから若干浮いているような。
だが視線を左にずらして視界にバイエルの工場群を入れると、マンションの浮き具合が目立たなくなり、代わりにこの街ならではのユニークな景観が見えてくる。右半分はレンガ色の屋根が並ぶ住宅街、左半分は工場やマンション、ショッピングモールなどの近代的な建物群と、見事に真ん中で分断されているのだ。
だが不思議とチグハグな街という印象はない。それはたぶん、あちこちに茂っている豊かな緑のおかげだろう。
とんがり屋根の住宅街と、工場、商業施設が自然に囲まれて共存しているユニークな街。それが、窓から見たレヴァークーゼンの第一印象だった。
そうこうしているうちに日差しがみるみる明るくなり、色づいた紅葉を鮮やかに照らし始めた。どうやら今日は快晴のようだ。
「KINOPOLIS」とロゴが入った建物は、昨夜、買い出しに行ったショッピングモールに併設された映画館。

魅入られたように窓辺に立って眺めながら、ふと感じた。この街はどことなく、ドイツらしくない。それはいったいどうしてだろう……と秋の空を見渡して、はっと気づいた。古いドイツの街(つまり観光客がよく訪れる街)なら空に何本もそびえているだろう教会や大聖堂の尖塔が、ほとんど見あたらないからじゃないだろうか。
つまり、空に十字架がない。代わりにそびえているのは、製薬工場の煙突と、その煙突が吐き出す煙。と書くと、なんだか殺風景な街のようだけど、この街で生まれ育った人にとっては、あの煙突もまた、愛すべき街の象徴なのだと思う。他のドイツの街の住民が、自分が生まれる前からずっとそこにある教会の尖塔を見て安心するように。レヴァークーゼンの住民も、旅行から帰ってきた時などに、あの煙突を見て安心するのではないだろうか。絶えず白い煙を吐き出している煙突を見ながら、そんなことを感じた。

もちろん、この街にも教会がない訳ではない。この窓からも、工場の煙突と重なるようにして、クライストキルヒェ(Christuskirche/ドイツ語で「キリスト教会」)の尖塔が見える。だが窓から見えるのは、かろうじてその一本だけ。そして私が朝食後に行こうとしているのもその教会だった。だって今日は日曜日。午後からはバイアレナでサッカー観戦をする予定だけど、午前中は教会に行って礼拝を守ろうと思っていた。5年前のドイツ旅行で、結局礼拝に行けなかったリベンジもあるし。

※この後の教会行きについては「教会に行く・5年ごしのリベンジ編」を参照。

この日、私が礼拝に出席したクライストキルヒェ

レヴァークーゼンを歩く

さて、日曜朝の礼拝にも出席して5年ごしのリベンジを果たした私は、満ち足りた気分で教会を後にした。午後三時半キックオフの試合までにはまだ時間があるので、それまでレヴァークーゼンを散策しよう。といっても迷子になってはいけないので(私は極度の方向音痴)、歩くのは駅周辺に限られるけれど。

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教会を出ると、すぐ横手に、この界隈のメインストリートともいうべき通りがある。車が通行できない「歩行者天国」になっており、道の両脇にはショップなどが並ぶショッピングゾーンだ。
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右手には、昨夜買い出しに来たショッピングモール「ガレリア」。昨夜はこのモール内のスーパーにしか寄らなかったので、他にどんな店があるのか見てみたかったが、それより先に行きたいところがあった。レヴァークーゼンのファンショップ「BAYER04-SHOP」 だ。
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日曜日なので店が開いているかどうか不安だったが、とりあえずプリントアウトしてきた地図を頼りに行ってみる。遠くから、見慣れたライオンのロゴが見えた時は「やった」と思ったが、近くに行くと、やっぱり閉まっていた……がっかり。まあ三日前に、バイアレナ内にあるファンショップには行っていたので、この路面店もバイアレナ内のショップと品揃えはあまり変わらなかったかもしれないけれど。
そしてよく見ると、店内全体がクラブのショップスペースという訳ではない模様。ショーウィンドーから察するに、店内の左半分がショップスペース、右半分がバイエル経営の旅行会社のスペースのようだ。
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BAYER04-SHOPがある通り。清々しい朝の空気の中をジョギングしている女性がいた。

それにしても、どの道も本当にきれいに舗装されている。5年前、ケルンに住む知人の家に泊めてもらった時に、その人がライン川の向こう岸にあるレヴァークーゼンの街を指さして「あそこはバイエル社があるから街が裕福で、道路がきれいに整備されている。ケルンから車で走っていると急に道がきれいになるので、『あ、ここから先はレヴァークーゼンだな』とすぐ分かる」と話してくれたことを思い出した。
街を歩きながら、もう一つ思い出した。今回、試合観戦と練習見学をご一緒させてもらったオカジさんはかつてドイツに住んでいた経験があるが、その彼女が「私はレヴァークーゼンには絶対に住めないと思った」と言っていたことだ。それを聞いた時はピンとこなかったが、今、実際に駅周辺を歩いてみると、なんとなく分かる気がした。きっと、街並みが小綺麗すぎるのだろう。道路だけでなく建物も、比較的新しく建てられたものばかりで、ドイツの街を歩くとしょっちゅう出くわす「中世の時代からそこにあるような古びた建物」が見あたらない。つまり、街の歴史があまり感じられないのだ。だからきっと、わりと新しい街なのだろう。古いドイツの街にはたいていあるマルクト広場もないし。その代わりに、駅前にはバス乗り場やロータリーがあり、その奧にはショッピングモールがあったりと、便利で機能的に作られているんだけど、便利すぎるところがかえって「人工的な街」という印象を抱かせて、昔ながらのドイツの街が好きな人にはなじみにくいのかもしれない。

でも、駅前こそ人工的だけれど、少し足を伸ばせば緑は豊かだしライン川は流れているし。自然あふれる郊外の小さな町という感じで、定年を迎えた老夫婦がのんびり老後を過ごすにはぴったりな町だと思った。特に、駅からバイアレナへ向かう川沿いの道は、まるで絵画のような美しさ。DSC_0726.jpg
とはいえ、駅周辺をちょっと歩いただけの私に、レヴァークーゼンの何が分かるという気持ちもある。せめて1年くらい住んでみないと、この街の本当の姿は見えてこないのではないかと思った。
バイアレナ(左奧の白い建物)へと続く並木道
※バイアレナ周辺については「サッカークラブがある街の日常。」も参照。

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ショッピングモールのある大通りに戻ると、さっきよりも幾分人が増えていた。
ショッピングモール内の広場。真ん中の噴水には囲いがなく、子どもたちが自由に水遊びできるような、ウェルカムな作りになっている。
今は秋なので水浴びする子どもはいないが、夏場はきっと賑わっているのだろう。
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モール一階の通行路を自転車で走り回っていた少年三人。自転車で走ってもいいぎりぎりのところでストップして、その先にあるガラス張りのショップゾーンを見上げていた。
自転車に乗っていない私は、彼らを追い越して先に進んだ。
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モール内の二階へと続くエスカレーター。さっそく上ってみた。DSC_0706.jpg
モールの二階。ガラス張りの天井からふりそそぐ自然光といい、植樹されている木といい、南国リゾートをイメージさせる明るい空間だが、日曜日なのでどのショップも開まっており、人通りがほとんどなかった。(ドイツに限らずヨーロッパのキリスト教国では『日曜日は安息日』という聖書の教えに従い、日曜日はほとんどのお店がお休みにな
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だが上を見上げると、人の代わりに鳩がいた。まるで気持ちよさそうに日光浴をしているよう。

モール内一階のカフェ。「日光浴を愛するドイツ人はテラス席がお好き」とは聞いていたが、外を歩くほとんどの人がコートを着ているこの寒い朝でも、テラス席でお喋りをしている女性たちを見て驚きつつ、感心する。膝に膝掛けをかけているけれど、それでも寒いだろうに。どんだけテラス好きやねん。傍らに犬がいるところも、いかにもドイツ人っぽくて微笑ましい。
他にもテラスを利用するお客が多いのか、他の椅子にもあらかじめ膝掛けが用意されているのが壮観。どんなに寒かろうが、少しでも日光を浴びようとするドイツ人の執念を垣間見た気がした。
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ショッピングモールを出ると、お昼近くなったからか、さらに人が増えていた。試合のある日らしく、レヴァークーゼンのユニフォームや、対戦相手のシャルケのユニフォームを着た男性がちらほらいる。
左手にある青い看板はベーカリー兼コンディトライ(ケーキ屋)。店内にはカフェスペースもあったが、まだそれほどお腹が空いていなかった(バイキング形式の朝食をたらふく食べた)ので、ケーキを一個テイクアウトした。
さらに駅前にある「Mr.Chicken」というチキン専門のハンバーガー屋さんでバーガーとチキンを購入。ホテルに戻ってそれらをいただく。私が泊まった部屋には冷蔵庫がついていないので、バーガーを食べ終わるまでケーキを冷やしておくことができず、さあ食後のデザートを食べようという時にはクリームが溶けかかっていた。DSC_0717.jpg

タクシーに乗せてくれない運転手?

昼食の後は、いよいよバイアレナでブンデスリーガ観戦だ。ベルリンで買ったユニフォームをバッグに入れて部屋を出ると、偶然、レヴァークーゼンのユニフォームを着た青年とエレベーター前で出会った。背中を見ると、一昨年までレヴァークーゼンで活躍していたヒーピアのネームと背番号。思わず「ヒーピア! ヒーイズ・ベリーグッドプレイヤー!」と片言の英語で話しかけると、彼は目を輝かせて、自分がいかにヒーピアが好きかを話し出した。もちろん私には彼の話す言葉の正確な意味は分からないが、とりあえず話を合わそうと、背伸びをして「ヒーピア、ベリーベリートール」とか相づちを打っていると、エレベーターが一階についた。これからバイアレナに行くというヒーピアファンの青年に「グッドラック」と言って別れる。自分もこれからバイアレナに行くのに、そのことを伝えられない自分の英語力がもどかしいが、かといってもっと英語を話せるように勉強しよう!とならないのは、さっきのように適当に英単語を並べるだけでも、それなりに簡単な会話ができてしまうからかもしれない。

※この後のバイアレナ行きについては「バイアレナに行こう」を参照。

念願のブンデスリーガ観戦だったが、残念ながらシャルケに0対1で惜敗。試合観戦後はデュッセルドルフに行き、ビアレストランで晩ご飯(「キツネと豚とジャガイモの夜」を参照)。

食事を終えて電車に乗り、レヴァークーゼン・ミッテ駅に降り立ったのは夜11時頃。駅からホテルまでは徒歩10分とはいえ、深夜に人気のない場所を歩くのは危ないだろうと、私は最初からタクシーに乗ろうと決めていた。幸い、駅前には何台もタクシーが止まって客待ちをしていたが、私がそのうちの一台に「ベストウェスタン・レヴァークーゼンまで行きたい」と言うと、運転手の男性はさっと後ろを指さして「そのホテルなら、あそこに見えてるよ」。
いやいやいや(笑)。あそこに見えてるのは知ってるけど、歩いていくのは危険じゃないかと思ったから、タクシーに乗せてってもらいたいわけで。でもタクシーの運転手からこういう反応が返ってくるあたり、深夜に一人で歩いても安全な街なのだろう、レヴァークーゼンは。しかしこの時は疲れていたこともあり、「乗せてほしい」と頼んだら、快くタクシーでホテルまで連れて行ってくれた。

部屋に戻ると、後はお風呂に入って寝るだけ。レヴァークーゼン最後の夜は、今回のドイツ旅行最後の夜でもあった。サッカー観戦もできたしインゼル・ホンブロイヒ美術館にも行けたし、まあまあ良い旅だった、と思う。心残りがあるとすれば、レヴァークーゼンに二泊もしたわりに、結局ほんの少ししかこの街を歩けなかったことだろうか。明日の朝にはホテルを出て、そのまま帰国の途につくし。だがこの「もうちょっと滞在したかった」という名残り惜しい気持ちを残して帰国する方が、その街がいつまでも後を引く思い出になって、心に残るのかもしれない。そんなことを考えながら、ドイツ最後の夜は過ぎていったのだった。

※2011年のドイツ旅行記はひとまずこれで完結。以下「続きを読む」に拍手への返信です。

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チャンピオンズリーグ観戦記
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今回の旅行のメインイベントの一つ、チャンピオンズリーグ「レヴァークーゼン対ヴァレンシア」の観戦記はこちら。
http://sheep11.sakura.ne.jp/Lev_Vale/index.html

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最高の試合の後には最高の景色を観賞(ケルン中央駅前のホテルの窓から)

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レヴァークーゼンに泊まる。〈一泊目〉
日本の学校指定の地図にも載っていない小さな街、レヴァークーゼン。もしサッカークラブがなければ、製薬関係以外の日本人には知られないままだったのではないだろうか。いや今でも、レヴァークーゼンといえば「バイエルの本社がある街」という認識が一般的で、ブンデスリーガのクラブがある街だとはあんまり知られていないのでは。「サッカーファンなら知ってるはず」と思いたいけど、日本代表入りするような有名選手が移籍してスタメンを奪う活躍でもしない限り、サッカーファンの間での知名度も低いままなように思う。
だが9年前は違った。サッカーファン、それも海外サッカーファンの間に「レヴァークーゼン」の名が旋風のように知れ渡った。チャンピオンズリーグで、リバプールやマンチェスター・ユナイテッドといったビッグクラブを次々になぎ倒しての決勝進出。私が「レヴァークーゼン」の名を知ったのもこの時だ。恥ずかしながら初めはクラブ名を聞いても、ドイツクラブとは分からなかった。レヴァークーゼンがドイツの街の名前だと知らなかったからだ。
それまでドイツといえばベルリンやミュンヘン、ハンブルグなどの大都市の名前しか知らなかった私が、初めて知ったマイナー都市(レヴァークーゼン住民の方すみません)。それがレヴァークーゼンだった。
たぶんその時から、漠然と「いつか訪れてみたい」と思い続けてきたのだと思う。その願いがかなったのが、あのチャンピオンズリーグ決勝進出から9年後の2011年。バラックが9年ぶりにレヴァークーゼンに復帰し、さらに久しぶりにチャンピオンズリーグの出場権も獲得したことが、レヴァークーゼンへの旅のきっかけだった。

旅の計画はこうだ。10月19日にレヴァークーゼンの本拠地・バイアレナでチャンピオンズリーグの「レヴァークーゼン対ヴァレンシア」を観戦。そして23日に、再びバイアレナでブンデスリーガの「レヴァークーゼン対シャルケ」を観戦。ヴァレンシア戦は夜の試合なので、試合後ホテルに帰る頃には深夜になる。そこで安全を考えて、ケルン中央駅のすぐ前のホテルに宿を取った。
だがせっかくレヴァークーゼンに来たのだから、駅からスタジアムを往復するだけじゃなく、レヴァークーゼンの街を歩いてみたい。そう考えて、10月22日、23日はレヴァークーゼン市のホテルに二連泊することにした。予約したホテルは、レヴァークーゼン・ミッテ駅から徒歩10分くらいの場所にある「ベストウェスタン・レヴァークーゼン」。

空が広いまち

ドイツ行きの飛行機が大幅に遅れたり、ドイツに着いてからもベルリン行きの飛行機に乗り遅れたりと細かいトラブルはあったものの、おおむね旅行は楽しく過ぎていった。なんといってもドイツ到着の翌日に、チャンピオンズリーグでレヴァークーゼンの勝ち試合を見れたのが大きい。それもえらくドラマチックな。前半あれだけボロボロだったチームが、後半まるで別チームのようになって逆転勝ちするなんて、まるで映画を見ているよう。(チャンピオンズリーグ観戦記はこちら
ベルリン一泊旅行も、行きの飛行機に乗り遅れたと思ったら、ケルンに帰る飛行機がまた遅れ(今度は飛行機の出発が遅れた)るなどトラブル続きだったものの、行きたかったところにはだいたい行けたし、満足した気持ちでケルンに戻ったのは22日の夕方だった。

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夕暮れを待つケルン中央駅

レヴァークーゼン・ミッテ駅は、ケルン中央駅からSバーンに乗って6駅目。観光客が多く、深夜になってもにぎやかなケルン中央駅と違い、レヴァークーゼン・ミッテ駅は試合のある日以外は降りる人も少ない小さな駅だ。だからこそ、暗くならないうちにホテルに着きたかった。目指すホテルは駅から10分と少し歩くが、さすが「バイエル社のお膝元だから街が豊か」と言われているレヴァークーゼン。どの道もきれいに舗装されているので、重いスーツケースを転がしながら歩くのもスムーズだ。だがその分、観光客がヨーロッパに夢見る「中世の時代からあるような、石畳の古い道」のようなものは駅周辺にはなく、ちょっと味気ないかもしれない。

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レヴァークーゼン・ミッテ駅



レヴァークーゼン・ミッテ駅の駅前


ほどなくホテルについて、フロントでチェックインをすませる。フロント係はぽっちゃりした可愛らしい黒髪の女性。日本からプリントアウトしてきた用紙を渡すと、彼女はそこに書かれた私のデータを見て「ヤーパン?」と目を輝かせた。「Ja」と答えると、彼女は嬉しそうに「私は昔、日本で学んでいた」と話してくれた。その証拠に、別れ際にカタコトの日本語で「アリガト」と言ってくれたので、私も「アリガト」と言って別れた。

フロントでもらったキーを使って部屋に入る。一瞬、部屋を間違えたかと思った。シングルルームを予約したはずなのに、ベッドが二つあり、広々としている。
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ベルリンで泊まったホテルと同じく、このホテルの部屋にもギデオンの聖書があった。ベルリンのホテルでは洋服ダンスの中の棚に、隠すようにして置かれていたが、このホテルではベッドサイドテーブルの棚に置かれていた。なのですぐに「あ、ギデオンの聖書だ」と気づいた。それだけで、なんだか心がほっとするのだから不思議。

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窓からは、夕焼けに染まるレヴァークーゼンの街が見渡せた。遠くの方に幾つかの煙突が連なり、煙を吐き出している。あれがバイエルの工場群か。想像していたよりも煙突の数が少ない。「工場の町」というから、もっと煙突が立ち並ぶ、工業化した町だと思っていたけど、窓から見渡した限りでは、緑豊かな、閑静な住宅街というイメージ。駅前に天をつくような大聖堂がそびえるケルンと違い、高い建物がほとんどなく、こじんまりした一軒家が並んでいる。なのでケルンよりも空が広く、大きく見えた。

茜色から群青色へと、刻々と色が変わっていくレヴァークーゼンの空に見とれていたら、あっという間に空が暗くなった。と同時に、お腹が空いていることに気づく。晩ご飯はホテルに着いてから、近くのスーパーに買い出しに行こうと思っていた。駅の近くには「ガレリア」というショッピングモールがあり、スーパーマーケット、カフェ、映画館、各種ショップ、ドラッグストアなどが入っている。窓からはそのショッピングモールがすぐ近くに見えるのだが、実際に歩いて行くのはちょっと不便。距離はたいしたことないのだが、途中の道が公園を横切っていくため、周りに店や家がないばかりか街灯もなく、真っ暗だからだ。そんな場所だから、当然人通りもない。
「公園に囲まれたホテル」というのは日中はいい雰囲気だけど、日が暮れるととたんに暗く寂しげな雰囲気になる。それは分かっていたのだから、賑やかなケルンで夕食を調達すればよかった……とちょっぴり後悔したけれど、でもできれば「レヴァークーゼンのスーパーで買いたい」というこだわりがあったのだ。このこだわり、レヴァークーゼンに思い入れのある方ならきっと分かっていただけると思う。

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ホテルからショッピングモールに行くには、このように広大な公園を横切らなくてはならない。これは翌朝に撮った写真なのでまだ明るいが、夜だとほんとまっくら。

いくらヨーロッパでは比較的治安の良いドイツとはいえ、夜、真っ暗で人気(ひとけ)がない場所の一人歩きはちょっとためらう。自意識過剰かもしれないが、女ひとりの海外旅行は「ちょっと自意識過剰」な方が安全だと思っている。
これが日本のホテルなら、ホテル内にコンビニがあることもあるが、ドイツのホテルでそれは期待できない。それでも一応「もしかしすると」と思ってフロントに降りて聞いてみたが、答えは「Nein」。そりゃそうだよね。ホテル内に食糧を売っている店があったら、ホテルのレストランで食べてくれる人が減りそうだし。
そういう訳で少し躊躇したけれど、空腹には勝てないので、ホテルを出てショッピングモールに向かった。周囲は真っ暗で、しかも寒い。なので風景を楽しむ余裕もなく、早足だったと思う。そしてショッピングモール内のスーパー「REWE」で、フォカッチャとヨーグルト、サラダ、ミネラルウォーターなどを購入。このREWE、どこかで見たロゴだと思ったら、かつてレヴァークーゼンのユニフォームの胸スポンサーだったところだった。地元のスーパーを胸スポンサーにしていたなんて、いかにも「地元密着」クラブのようでちょっとほっこりする。
帰り道も早足すぎて、道路を横切る際にあやうく車にひかれそうになったけど、無事ホテルに到着。

部屋でテレビを見ながら、買ってきたフォカッチャを食べる。フォカッチャって、これまでどの店で食べてもそんなにまずかった記憶がないんだけど、このフォカッチャはびっくりするくらいまずかった。必要以上に酸味が強くてパサパサしている。お腹が空いていたはずなのに、半分も食べられずに捨ててしまった。食い意地の張ったこの私が! どんだけまずかったか想像いただけると思う。というか、どんなに下手でもレシピ通りに作ったらそれなりにおいしくできそうなフォカッチャを、どうやったらこんなにまずくできるのか不思議だ(ポロクソ……)。
これまでホテルの朝食などで食べた経験から「ドイツのパンはおいしい」と思っていたけど、どうやらそれは、パン作りのマイスターがいる「パン屋さん」で作られたパンに限った話らしい。スーパーで売られているパン(工場で大量生産されるパン?)はあんまりおいしくない……というか、日本人向けの味ではない。スーパーで売られているパンも普通においしい日本の便利さを再認識した。

そういう訳で今夜の主食となるはずだったパンは「ハズレ」だったけど、代わりに、ケルン行きの飛行機「エア・ベルリン」の機内でもらったクッキーをおいしくいただく。その他にもベルリンで買ったチョコレートなどをつまんでいたら、けっこう満腹になった。夕食がお菓子というのはなんとも寂しい気がするけど、今回の旅の目的はグルメじゃないし、明日の夜はビアレストランでドイツ料理を食べる予定なので今夜はこれで良し。旅先での食事はメリハリが肝心なのだ。毎晩レストランでおいしいものを食べていると飽きるし、胸焼けしてくる。今日が粗食だったら次の日はちょっとリッチにするなどの「バランス」が大事なのだ。(とかなんとか理屈をこねてみるが、ようは毎晩レストランで食事できるほど懐に余裕がないだけだったりする)

夕食の後はお風呂。私がこのホテルを選んだ理由の一つに「浴槽付き」というのがあったが、その理由で選んで正解だった。旅の終盤、自分では意識していなくても実はけっこう疲れていた体に、湯船がなんと気持ち良かったことか。確かに、部屋にシャワーだけでなく浴槽もついているホテルはちょっと値段が張る。なので旅の中盤と終盤にだけ「浴槽付き」のホテルに泊まるのが、疲れを取ってリフレッシュする意味でも効率的でいいと思う。まあ夏場なら、旅行中ずっと「シャワーのみ」でも問題はないけれど。でも秋冬の旅行では、せめて一晩くらいは湯船にゆっくりつかりたい。特にヨーロッパの冬は冷え込むし。

それにしても、駅近くのホテルとは思えないほど静かだ。今さらながら、レヴァークーゼンは郊外の閑静な住宅街なんだと実感する。もちろん後は眠るだけなので、ホテル周辺が静かなことに越したことはないのだけれど。
こうして、「レヴァークーゼンに泊まる・一泊目」は静かに過ぎていったのだった。〈続く


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そして壁は観光の目玉になった。
10月21日。ベルリン。
念願の巨大ピザを食べた後、バスに乗ってフィルハーモニー前で下車。有名なベルリン・フィルの本拠地を見上げながら、その奥に建っている文化フォーラムへ。本来なら、この文化フォーラム内にある絵画館で3時間くらい過ごす予定だったが、ベルリン行きの飛行機に乗り遅れるという大チョンボをおかしたため、ベルリンでの予定がことごとく狂っていた。文化フォーラムに入った時には、すでに夕方の5時。閉館まであと1時間しかない。たった1時間で、名画の数々をじっくり鑑賞できるとはとても思えない。なんだか入場料を無駄にするような気もしたけれど、前から楽しみにしていた絵画館をあきらめきれず、受付でチケットを買って中に入った。

閉館間近というのもあって、中はガラガラ。でももちろん監視員はいる。そして館内は広く、たくさんの部屋が連なり合っていて、まるで迷路のよう。受付でもらった案内図を見ながら順番に館内を見てまわったけど、それでも何度も迷いそうになった。いや、これは私が極度の方向音痴なせい。普通の人ならそんなに迷わないだろう。しかしこのときの私は生来の方向音痴に加えて「一時間で見終わらなきゃ」という焦りもあって、しょっちゅう同じ部屋に突き当たっては「あれ、この絵さっきも見たっけ」を繰り返した。それでますます気が急いて、自然と早足になってしまう。パッと見て惹かれた絵はじっくり見て、そうでもない絵は立ち止まらずに流すという鑑賞方法。せっかく来たんだから、一枚一枚の絵をもっとじっくり見たかった。しかし飛行機に乗り遅れた自分が悪いんだからしょうがない。

閉館ぎりぎりまで粘った後、絵画館を出ると、空はすでに夕闇が迫っていた。フィルハーモニーの向こうに、ドイツらしからぬ近代的な高層ビル群が見える。ポツダム広場だ。周囲には私と同じ観光客ふうの人が多かったが、ほとんどの人がそのポツダム広場に向かって歩いていた。向こうに駅があることもその理由だろう。私も彼らに混じって、広場を目指した。
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夕日に染まるフィルハーモニーと、その向こうのポツダム広場。

美術鑑賞をした後はいつもそうだが、このときも足がすっかり棒になっていた。だが私はいくら足が痛くても、ひきずって歩くことだけはしないでおこうと決めている。足をひきずって歩くのは日本人の悪いくせで、欧米人はその歩き方をとてもみっともなく感じていると、以前ドイツに住む知人に聞いたからだ。以来、日本にいるときもそうだが、外国だとなおさら歩き方に気をつけている。このときも足を引きずらないようにしながらポツダム広場に向かうと、そこは人でごった返していた。夕方なので仕事帰りの人もいたが、それ以上に観光客が多かった。ソニーセンターで首をのけぞらして天井を見上げ、空を覆うテント屋根を写真に撮っている人も多い。
その光景を見ていて気がついたのは、一言で観光客といっても外国人より、地方から来たドイツ人が多そうだということだった。これはポツダム広場だけでなく、ベルリンの他の観光地や、バスに乗っていたときも感じたことだった。同じドイツ人にとっても、ベルリンというのは一度は見ておきたい街なのだろう。
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ソニーセンター

トランペットの音が聞こえてきたのでそちらを見ると、揃いの赤いローブを着た吹奏楽団が行進していた。その後に続く大勢の人たち。楽団はただ演奏するだけでなくプラカードもかかげており、何かを記念するための行進らしかった。
演奏している人たちを見ると、頭に白髪をたくわえた老紳士をはじめ、年配の人が多い。そして演奏しているのはジャズ。だからだろうか、楽団にはどことなく大人のムードが漂っていた。
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ポツダム広場の真ん中、駅の入り口付近に行くと、ますます人が多くなった。金曜の夜ということもあるだろう。広場には大型ショッピングモールもあるので、買い物目当てらしい若者の姿も目立った。
しかし私の目当てはショッピングモールではなく、壁だった。崩壊したベルリンの壁の一部が、このポツダム広場に保存されていると聞いたからだ。
その壁はすぐ見つかった。広場の真ん中にそびえ立っていたからだ。壁といえばベルリンの「負の遺産」だから、もっとひっそりと隅の方にあるのかと思っていた私は驚いた。もうそんな「負の遺産」なんて時期は通り越して、ベルリン観光の目玉としてもてはやされているのだろう。その証拠に、壁の前では東ドイツ時代の警察官のコスプレをした男二人が屋台を出して、観光客に写真を撮らないかとアピールしていた。壁で封鎖されていた時代は、市民から恐れられていたであろう国境検問所の警察官が、今ではお金儲けの道具としてバロディにされているのだ。そしてそれを、ベルリンの施政者も、市民も許している。日本ではちょっと考えられない。日本で、戦争の傷跡を残すために保存されている建物の前で、こうしたパロディによるお金儲けが許されるだろうか? たとえば原爆ドームの前で、エノラ・ゲイの乗組員の扮装をしたアメリカ人が記念写真用の屋台を出している感じ? うまい例えが思いつかないが、とにかく日本では考えられない光景だった。
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壁の前で屋台を出しているコスプレ警察官と、記念撮影を依頼している若い女性二人組。

もちろん、ベルリンの壁はそうした「お金儲け」の舞台としてここに残されているわけではない。壁と壁の間には展示パネルがはめこまれ、ベルリンが東西に分裂していた頃の写真を載せて、壁について解説していた。中年の女性がそのパネルを指差しつつ、傍らの少年に、壁について説明している。壁の崩壊後に生まれた少年にとっては、この壁はまさしく生きた教科書だろう。少年に向かって説明する女性の表情が真剣で、「継承」という言葉が脳裏に浮かんだ。
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次々と新しいビルが建てられるドイツ屈指の近代的な広場に、旧時代の遺物ともいうべき「壁」が残っているのは、現代への警告だろうか。だが不思議と「場違い感」はない。

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この壁はそのまま「壁の歴史博物館」とでもいうべきスポットになっている。
神妙な顔で、壁についての説明を読む人々。

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壁はガラス板などで保護されず、むきだしのままそこに立っている。なので当時の落書きなどをダイレクトに見ることができる。

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壁の前で記念撮影をする人が後を立たない。

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壁の断面には、ガムのようなものがびっしりくっついていた。年月を経て固くなったチューイングガムだろうか? 分からない……。

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ベルリン名物・ベロタクシーと、夜空に浮かぶ大型広告。

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広場でひときわ目立っていた、七色に光る高層ビル。
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教会に行く・5年ごしのリベンジ編〈3〉
ヨーロッパの教会というと、荘厳なステンドグラスや、立ち並ぶ聖人像をイメージする人も多いと思うが、それは歴史あるカトリック教会のイメージ。ドイツではケルン大聖堂のような、観光名所になっている教会に多いので、「教会=ステンドグラス」のイメージが強いのだろう。
近年になって建てられた、または改装されたプロテスタント教会は、装飾を省いたシンプルなデザインが多い。この教会の礼拝堂も、白壁に木の組み合わせが清々しい、シンプルな内観だった。高い天井と、正面の十字架を見ると教会だと分かるけれど、それ以外はまるで北欧風の住宅にいるようなぬくもりがある。
驚いたのは、壁にずらっと絵が飾られていたことだ。プロテスタントでは「絵や彫刻=偶像崇拝」との考えから、教会内にはそういったものを――たとえ聖画であっても――飾らないところが多いので。
私は興味をひかれて、それらの絵を見て回った。そしてさらにびっくり。それらの絵は聖画ですらなく、レヴァークーゼン出身の画家が描いた抽象画だった。後で教会の季刊誌を読んで分かったことだが、ちょうど地元の美術館でこの画家の展覧会をしているので、その告知も兼ねていたらしい。つまり常に、壁に絵が飾られている訳ではないってことか。私は礼拝が始まるまでの間、それらの絵を鑑賞できてラッキー♪な気持ちもあったけれど、「いくら期間限定とはいえ、礼拝堂の壁をギャラリーにするなんて」と眉をひそめる人もいるだろう。

会堂内では写真を撮らなかったので、教会の玄関で売られていたポストカードで内部を紹介。


季刊誌の表紙


季刊誌の中身。この画家の絵が壁にずらっと飾られていた。

書き遅れたが、私が礼拝堂に入ってすぐに、この教会の責任者のような男性が私に気づき、挨拶してきた。私が「日本から来た旅行者で、クリスチャンなので出席したい」と言うと、笑顔でうなずいてくれた。念のため「この教会はプロテスタントですか」と聞くと「そうです」とも。このときは、この人がここの牧師さんなのかと思ったが、そうではなかった。
また、礼拝堂の片隅には丸テーブルと椅子が並べられ、コーヒーカップとお菓子が用意されていた。礼拝後、残ってお茶をしたい人はここに座って、コーヒーブレイクを楽しむのだろうか。

壁の絵もひととおり見終わり、椅子に座って礼拝開始を待ちながら、受付で手渡された聖書をめくった。だが中身をみてみると、どうやら聖書ではなく、この教会の宗派独特の、礼拝用の書物のようだった。プロテスタントも細かく宗派が分かれているので、こういうことは珍しくない。
そうこうしているうちに、次々に礼拝堂に人が入ってきた。皆、目当ての席に移動してもすぐ座らず、立ったまま頭を垂れて短く祈り、それから座っていた。こうして無事に教会に来れたことへの、感謝の祈りだろう。そういえばアメリカやイギリスの教会でも、座る前に短く祈りを捧げている人が多かった。
10月という時期もあって、会堂内には暖房が入っておらず、ひんやりしていた。なのでコートを着たまま、席についている人がほとんどだった。参加者層は、上品そうな中高年が多いのは他国の教会と同じだが、ティーンエイジャーっぽい女性も何人かいた。

やがてオルガンの前奏が始まり、牧師が教壇に上がった。まだ若く、ほっそりとした体型の男性で、眼鏡をかけたその風貌はどこかの研究者のようなインテリ風だ。
牧師が聖句を読み上げ、続いて会衆(礼拝の出席者のこと)が声を合わせて聖句を読み上げる「聖書交読」が始まった。交読とは、司会者と会衆が一節づつ交互に読んでいくことをいう。今日の交読文は週報に載っているので、私もそれを見ながら懸命に皆と声を合わせた。
それにしてもドイツ語で読みあげられる聖句の、なんと美しいことか。(また牧師さんが「ええ声」なのである) アメリカやイギリスの礼拝に出たときも、英語で読まれる聖句の美しさに感動したが、ドイツ語はそれ以上だ。なんとなく、英語よりキレがいいというか、言葉の発しかたにメリハリがある。もちろん何を言っているかは分からないのだが、だからこそ、まるで音楽を聞くように、うっとりと聞き惚れてしまう。
ドイツ語で読まれる聖句の響きを堪能できただけでも、ここに来た甲斐があった……と幸せ気分にひたっていると、さらに嬉しいサービスがあった。交読が終わり、牧師が二階の桟敷席を指さしたのだ。周りの者もその方向を見上げたので、私も見ると、そこには聖歌隊がいるらしかった。「らしかった」というのは、はっきりとその姿が見えた訳ではないので。だがその後、牧師が聖句を読み上げるごとに、頭上から美しいハーモニーが流れてきた。その歌声はまるで天使のよう……そして私には子守歌のよう。そうなのだ、このあたりから睡魔がじわじわ襲ってきたのだ。昨夜はたっぷり眠ったはずなのに、なんで? たぶん、たまっていた旅行の疲れが、教会という「ほっとできる場所」に落ち着いたことで、急にときほぐされたのだと思う。さらに加えて、牧師の話す言葉がドイツ語である(当たり前だ)。これまで出席した海外の教会は、いずれも英語の礼拝だった。なので牧師の説教もなんとなく意味は読み取れたのだが、ドイツ語はさーっぱり分からない。聖歌隊の歌が終わり、牧師の説教が始まると、さらに睡魔がピークになった。前述したように、牧師が「ええ声」で、ドイツ語の響きが美しければ美しいほど、音楽のように耳に心地よくひびき、ついウトウト。そのたびにはっと目を開いて、自分にカツを入れた。5年ごしのリベンジなのに、礼拝中に眠ってたまるか!
しかしその努力もむなしく、いつしかぐっすり熟睡の海へ。はっと気づいたときには、説教はもう終わっており、聖歌隊の歌声が響いていた。……なんだか、自分に負けた気分。でも礼拝後まで眠りこけて、他の人に起こされるよりはまだマシか。思えば私は昔から、礼拝中に眠ってしまうことが多かった。今回は礼拝が終わる直前に、自力で目覚められたのだから、私にしてはよくやった方だ……などと心の中で自分を慰めているうちに、礼拝が終わった。席を立ち、そのまま出口へと向かう人、または礼拝堂に残って牧師や、ほかの出席者とお喋りする人などさまざまだ。私もドイツ語が達者だったら牧師と話してみたかったが、残念ながらそれはかなわないので、そのまま出口に向かった。受付と反対側の机には、この教会の季刊誌、ポストカードなどが置かれていた。私は季刊誌とポストカードを一つずつ手に取り、持ち帰ろうとすると、近くにいた年配のご婦人に「そのポストカードは1ユーロよ」と笑顔で注意された。見ると、確かにすぐ側に、コインを入れる箱がある。私はあわてて財布から1ユーロを取り出し、その箱に入れた。

さっきまで礼拝堂で出席者と話していた牧師が、玄関まで出てきて、帰って行く人々を見送っていた。若い女性数人が、熱心に牧師と何か話している。私も何かひと言でも挨拶したいと思いつつ、適当な言葉が出てこないのでそのまま教会を出た。だって牧師に「チュース(じゃあね)」と言って別れるのは、いくらなんでもおかしいし。無難なのは「アウフ、ヴィーダァーゼーエン(さようなら)」なんだろうけど、教会なんだから、もうちょっとふさわしい挨拶をしたい。「良き御言葉のとりつぎをありがとう」とか。いや、でも礼拝中ほとんど寝てたくせに、良き御言葉なんて言うのはさすがに嘘くさいか(汗)。それ以前に、牧師が何を話していたかも分かっていないし。でもドイツの礼拝に出たときに、帰り際に何か挨拶して帰りたい。これは、次にドイツに来るときまでの課題にしよう。

教会を出て、少し歩いてから振り返ると、玄関ではまだ牧師が出席者たちと話しつつ、帰る人たちを見送っていた。そして空は、朝、見上げたときよりもさらに青く、濃くなっていた。申し分のない、晴れ渡った秋の空だ。これから街でお昼ご飯を買って、午後3時からのサッカー観戦に備えなくちゃ。
こうして、礼拝中に居眠りするという失態はおかしたものの、5年ごしのリベンジは無事に達成されたのだった。
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教会に行く・5年ごしのリベンジ編〈2〉
5年前のドイツ旅行では、現地に着いてから、日曜日に行く教会を探した。なので事前にちゃんと礼拝開始時間を調べることができず、失敗した。同じ轍は踏むまいと、今回は旅行前から、日曜日に行く教会を決めておくことにした。
幸い、教会はすぐ見つかった。レヴァークーゼン市にあるクライストキルヒェ(Christuskirche/ドイツ語で「キリスト教会」)だ。
選んだ理由は立地の良さ。レヴァークーゼン・ミッテ駅のすぐ近くにあり、駅からもその高い尖塔が見える。

レヴァークーゼン・ミッテ駅の駅前。アーケード街の向こうに尖塔が見える。写真では分からないが、尖塔の頂点には十字架がつけられている。

日曜の朝にこの教会に行くため、前日の夜はレヴァークーゼン市内のホテルに宿泊することにした。こちらも、レヴァークーゼン・ミッテ駅からほど近いベストウェスタン・レバークーゼンを予約。ホテルから教会までは徒歩10分もかからない。

そして当日
2011年10月23日、日曜日。朝、起きてすぐに、窓からレヴァークーゼンの街並みを見た。朝靄の中に、教会の塔が突き出ていた。その向こうで、バイエル製薬の工場の煙突が立ち並び、白い煙をたなびかせていた。時計を見ると8時。こんな朝早くから稼働している工場ってすごい。

教会の塔の向こうに、バイエル製薬の工場群が見える。煙突からたなびく煙は、レヴァークーゼンの風物詩。手前にある「KINOPOLIS」は映画館。

ホテルのレストランで、ドイツならではの盛りだくさんなバイキングの朝食を食べた後、部屋でちょっとよそ行きの服に着替える。旅行中はずっとデニムパンツを履いていたんだけど、さすがに礼拝に出るのにデニムじゃマズいと思い、礼拝用のスカートをわざわざスーツケースにつめてきたのだ。教会の近くのホテルに前泊したことといい、5年ごしのリベンジへの熱意が伝わってくるっしょ?(笑)

シャツとスカートに着替え、コートをはおったが、首回りがちょっと寒い。そこで、三日前に買ったレヴァークーゼンの応援マフラーを首に巻いてホテルを出た。
礼拝開始は10時から。早めに行って待ちたかったので、ホテルを出たのは9時すぎだったと思う。ホテルから教会までは徒歩8分ほど。地図を見なくても、歩くとすぐに教会の塔が見えてくるので迷わない。周りに、塔より高い建物がないからだ。塔を見上げて歩きながら、ようやく、雲一つない晴天だということに気づいた。今日は午後からバイアレナでレヴァークーゼン対シャルケ戦を観る予定だ。晴れてくれてよかったーなどと思っているうちに、教会についた。周りを木々に囲まれた広い敷地に建てられており、かなりリッチな教会みたい。
さて、日本の教会だと、大きな教会の隣にはたいてい教会に来る人のための駐車スペースがあるのだが、この教会にはそういったスペースはなさそうだ。駅のすぐ近くということもあるだろうし、歩いて来れる信者さんが多い、つまり地域密着の教会ということもいえるだろう。

レンガづくりの堂々とした外観。中世の城のようにも見える。(写真は礼拝後に撮影)


壁には聖句が刻まれている(すみません、なんて書いてあるのか判別できません)

会堂に入ると、恐らく教会学校の子どもたちだろう、10才前後くらいの少年たちが受付にいた。彼らは教会に来た人に聖書と週報を渡す役目で、しかも「誰が一番多く渡せるか」を仲間たちで競い合っているようだった。私が入っていくと、少年の一人が素早く身を乗り出して、私に聖書と週報を手渡した。
その動作があまりに急だったためか、私は週報を受け取り損ね、下に落としてしまった。拾おうと身をかがめたとき、今度は首に巻いていたマフラーを落としてしまった。すぐに拾い上げ、少年に礼を言って礼拝堂に入ったとき、きっと顔が赤くなっていたと思う。
なぜ赤面? それはもちろん恥ずかしかったからだけど、なぜ恥ずかしい? いくら地元クラブのマフラーとはいえ、教会の礼拝に、サッカーの応援グッズを身につけてくるなんて非常識だと感じたからだろうか。それとも、どこからどう見てもアジア人の自分が、この街に住む少年たちの前で、この街のサッカークラブのマフラーをしていることへの恥ずかしさ? 日本人なのに、ドイツのクラブを応援していることへの後ろめたさだろうか?
そんなことを考えながら、私はマフラーをそのままバッグにしまいこんだ。

長くなったので〈3〉に続く。
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教会に行く・5年ごしのリベンジ編〈1〉
クリスチャン家庭に育ってよかったことの一つに、「海外旅行中に、現地の教会の礼拝にすんなり行ける」ということがあるかもしれない。海外、特にヨーロッパを旅行中は、歴史ある美しい教会に魅力を感じ、つい中に入りたくなる人も多いのでは。教会は基本的に誰でもウェルカムなので、扉が開いていれば、信者以外でも自由に見学できることが多い。もちろん日曜の礼拝も誰でも出席できるんだけど、キリスト教に馴染みのない人は、礼拝に出席することに敷居の高さを感じ、遠慮してしまいがちだ。
その点、子どもの頃から親に連れられて教会に通い、「教会=自分の家」みたいな感覚になってる私には遠慮がない(ずーずーしい)。なので海外に旅行したときは、日曜の朝には必ず現地の教会に行く。同じプロテスタントの教会でも、その国や街によって外観や内観が違うのはもちろん、礼拝の雰囲気や牧師さんの服装などもさまざまで、面白い。(何しに教会に行ってんだって話だが)
ただ観光地を巡っているだけでは分からない、そこに住む人々の「素顔」みたいなものを感じられるのも、礼拝に出席する楽しみの一つ。また最近は、「キリスト教国」と言われている国でも年々礼拝の出席者は減っていて、残った出席者は高齢者が多く、若者が少ないのはどの国も同じだということも実感できる。(それでも日本の教会よりはずっと多いのだが)
と書くと、なんだかずいぶんたくさんの国の教会の礼拝に出たみたいだけど、実は今まで出た礼拝はアメリカとイギリスのみ。アメリカで1つ、イギリスで2つの教会に行ったが、白人の富裕層がメインの教会や、牧師さんが黒人で、出席者も白人黒人入り交じった教会など、さまざまだった。
5年前のドイツ旅行でも、日曜日には教会に行くつもりだった。事前に作った「ドイツでしてみたい13のこと」リストにも、しっかり「日曜日に教会に行く」を入れてたんだけど、「寝坊した&事前に礼拝の時間をきちんと調べなかった」のダブルチョンボで礼拝出席ならず。(詳しい顛末は「教会に行く」にて)

そこで5年ぶりのドイツ行きとなる今回は、ぜひ5年前のリベンジをしたいと思っていた。なんたってドイツはルターを生んだ国であり、今のプロテスタントの源流となった国である。
だがそういう歴史的な背景よりも、旅行中に教会に行きたいもっとも大きな理由。それは「ほっとしたいから」かもしれない。
非日常の連続である海外旅行中に、教会の椅子に座るとほっとする。たとえ異国であっても、同じ信仰を持つ人たちと一緒の空間にいるという安心感。聖書や賛美歌の箇所について、こちらから質問すれば丁寧に教えてくれるけど、それ以外は放っておいてくれるのも居心地がいい。だって言葉が分からないから、話しかけられても分からないし(笑)。

前置きが長くなったので(いつものことだ)、5年ごしのリベンジ編〈2〉に続く。
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ハイネマンで愉しむ「上品系」ドイツスイーツ
日本でもっともメジャーな「ドイツのお菓子」といえば、恐らくバウムクーヘンだと思う。が、意外とドイツ旅行中に、バウムクーヘンが売られているのを見ることは少ない。というか全く見ない。観光客向けの土産物屋にも置いていないし。もしかしてバウムクーヘンって、カール・ユーハイムおじさんの日本向け創作レシピか?と思いきや、そんなことは全くなかった。実はバウムクーヘンは、ドレスデンなどのドイツ東部が本場らしい。私が今まで訪れたのは、ケルンなどのドイツ西部ばかり。どうりでバウムクーヘンを見かけないはずだ。私がもっとも東に行ったのって、せいぜいベルリンまでだし。そのベルリンには、バウムクーヘンが名物のカフェ・コンディトライがあるらしく、今回の旅行で立ち寄りたいと思っていた。が、飛行機に乗り遅れるなどのハプニングのため、時間がなくて行けずじまい。残念。

ドイツのバウムクーヘンに憧れて

「ドイツ西部ではバウムクーヘンを全く見ない」と書いたが、確かに数は少ないものの、西部にもバウムクーヘンを売っているお店があった。デュッセルドルフのカフェ・コンディトライ「ハイネマン」がそうだ。もしかすると、デュッセルドルフに日本人が多く住んでいることも関係しているのかもしれない。
「ハイネマン」にあるのはオーソドックスなバウムクーヘンではなく、チョコレートでコーティングされた「ハイネマン・バウムクーヘン」なるオリジナル製品。そのチョコがけバウムクーヘンを一口サイズにカットしたものもあり、旅行前からこれを買おうと決めていた。それと、「ハイネマン」でもっとも人気があるという「シャンパン・トリュフ」。他にも、公式サイトには派手さはないが玄人好みのスイーツがいろいろラインナップされていて、旅行前からそれらを見て夢をふくらませていた。カフェも併設されているので、できればカフェでコーヒータイムも楽しみたい。正直、今回の旅行でもっとも「訪れるのが楽しみな飲食店」だったと思う。

そして当日

10月19日、午前中はデュッセルドルフ郊外のインゼル・ホンブロイヒ美術館へ。午後は市内中心部に戻って、ハイネマンで買い物&コーヒータイム。なんて効率的なデュッセルドルフ観光だろうか。同行して、ナビゲートしてくれたオカジさんありがとうございます。

ハイネマンはデュッセルドルフ市内に数件あるが、2階がカフェスペースになっているフェラインスパンク・パッサージュ店に行く。1階はスイーツ売場になっており、良い身なりの紳士淑女で混み合っていた。お目当てのカットされたチョコがけバウムとシャンパン・トリュフを購入した後、ケーキのショーケース前へ。相変わらず、ドイツのケーキはどれもずっしりと大きい。日本だと、ケーキのショーケースを前にした第一声は「おいしそう〜」なのに、ドイツだと「でかっ!」。
ベリー類を使ったケーキが多いのも、ドイツの特徴だろうか。ベリーの種類も豊富だ。対して日本のケーキは、イチゴは多く使われているけれど、ベリーを使ったケーキは少ない。日本人がイチゴ好き、というのもあるだろうが、日本のイチゴがとびきりおいしいことも理由の一つだと思う。欧米からの旅行客は、日本でイチゴを食べると、その甘さとみずみずしさに感激するのだと以前読んだことがある。
そんなことを思いながら、ショーケース前で悩むこと数秒。やっぱり今回もシュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテを頼んでしまった。前回の旅行中に、ケルンの「カフェ・クレーマー」で食べたシュヴァキル(略した)と、どんな風に違うのかも味わってみたかったし。

上品な客層に合う、上品なトルテ

ドイツのカフェでケーキをいただくのは、日本のそれとはちょっと仕組みが違う。まずショーケースからケーキを選んで、それを店員に伝える。すると店員がケーキの名前や番号などを書いた紙をくれるので、それを持ってカフェ席へ。この時は2階にカフェがあったので、階段を上がって2階へ。階段の壁には、この店を訪れたVIPたちの写真が額入りで飾られていて、ちょっとしたギャラリーのよう。

明るい日差しが降り注ぐカフェは、年配のリッチなご婦人たちで賑わっていた。メニューを広げて、ハイネマンのオリジナルブレンドコーヒーを注文。ドイツらしく濃いめだが、すっきりとした上品な味わいだ。この「上品」というのがハイネマンのキーワードらしく、続いてやってきたシュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテも、見た目からして上品そのもの。サクランボが主役のこのケーキは、ケーキの上にサクランボをそのままトッピングするのが一般的だが、この店のシュヴァキルは、生クリームの上にぽつんと赤い斑点があるだけ。地味だが、見ようによっては乳房を表現しているようにも見え、そこはかとなくエロティック。
で、サクランボはどこにあるのかというと、ココアスポンジと生クリームにサンドされたケーキの下部に、シロップ漬けのサクランボがぎっしりと挟まれている。と書くと甘そうだが、甘さは控えめで、サクランボのリキュール「キルシュワッサー」の風味が強い。

それにしても、この生クリームのボリューム感はすごい。土台のスポンジとパイ生地では支えきれずに、皿の上でぷるぷる震えているし。が、食べてみると意外とあっさり。生クリームはふんわりと軽く、いくらでも食べられそう。また、土台のパイ生地はサクサクと香ばしく、生クリームやスポンジのふんわり食感をきりりと引きしめ、食感にアクセントをつけている。
派手なトッピングよりも香りと食感のバランスを重視した、大人向けのシュヴァルツヴァルダー・キルシュトルテだ。4年前にケルンで食べた、カフェ・クレーマーのシュヴァキルはもうちょっと甘みが強くて、こってりしていたと思う。どちらもそれぞれおいしいし、店ごとに味の違いがあるのが楽しい。次にドイツに来たときも、またシュヴァキルを頼んでしまいそうだ。

日本でも買えるハイネマン名物

「ハイネマン」で購入したシャンパン・トリュフを、その夜、ホテルでさっそく一個食べてみた。ほろ苦いビターチョコレートの中から、芳醇なシャンパンクリームが広がる瞬間がたまらない。同時に購入したチョコがけバウムクーヘンは、日本に帰国してから食べた。バウムクーヘンの生地は、口に含んだとたんすうっととろける口どけの早さ。写真を撮っておくのも忘れて、あっという間に一箱なくなってしまった。これがドイツのバウムクーヘンの味わいか!と納得するのはまだ早い。シュヴァキルと同様、定番菓子であればあるほど、店によってそれぞれ味が違うはず。次はまた別の店で、できればドイツ東部のバウムクーヘンを味わってみたい。

シャンパン・トリュフの方は、「ハイネマン」と技術提携している大丸梅田店の「メンヒェン グラードバッハ」でも売られていた。しかしこの店、ドイツの「ハイネマン」と技術提携していることを店内のどこにも書いていないのだ。公式サイトもないし。ハイネマンって、日本ではそんなにネームバリューが高くないからだろうか。今回の旅行でハイネマンびいきになった私としてはちょっと悲しい。

カフェ・コンディトライ  ハイネマン
フェラインスパンク・パッサージュ店
住所:Martin-Luther-Platz 32(Eingang über Königsallee oder Blumenstraße)
https://www.konditorei-heinemann.de/
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キツネと豚とジャガイモの夜。
やっぱドイツ行くならビールっしょー、それも前の旅行では飲めなかった街のビールが飲みたい! ということで、アルトビールの街・デュッセルドルフでドイツ最後の夜を過ごすことになりました。日中、バイアレナでレヴァークーゼン戦を一緒に見るオカジさんとTさんも一緒です。ドイツで、三人一緒にご飯を食べられるのはこの夜だけ。ということは、一人では量が多すぎて食べきれないドイツ料理を食べられるチャンス!

楽しくも悩ましい店選びですが、デュッセルドルフで暮らした経験を持つオカジさんが、「ブロイハウス(自家醸造ビールを出す酒場)の割には料理がおいしい」というお店を推薦してくれたので、そこに即決しました。「Brauerei im fuechschen」というお店。fuechschenは子ギツネ、キツネちゃんという意味なので、店名は「キツネちゃんの醸造所」? 
公式サイトを見ると、なるほど、どのページに飛んでもキツネちゃんがいます。キツネちゃんがマスコットキャラクターなのね。しかしあのサイト、歴史あるブロイハウスのサイトとは思えないほどサイケでポップ(笑)なのはいいけれど、ポップすぎて、ユーザビリティーが悪いような。飲食店の公式サイトなのに、どこに何があるのかよく分からない。営業時間や地図などの基本データや、メニュー表などはすぐ見つかるようにした方がいいと思うんだけど、別にそんなことに気を配らなくてもいいくらい、儲かってるってことでしょーか。

やたらとポップな公式サイト
http://www.fuechschen.de/

■そして当日

10月23日、ドイツ滞在最後の夜。午後の試合を見てから飲みに行く予定だったので、果たして勝ち試合を見て祝い酒になるか、それともやけ酒になるか?……結果はやけ酒でした。レヴァークーゼンはいいところなく、シャルケに0対1で完封負け。やさぐれ気分でデュッセルドルフに向かいました。

夜のデュッセルドルフは、昼間とはまた違ういい雰囲気。観光客が多いケルンと違って、地元民が多く、しかもその地元民に裕福層が多いので、繁華街もどこか落ち着いた雰囲気なんですよね。
日系企業が多く、「日本人が多い街」というイメージがあるせいか、かえって日本人旅行者には敬遠されてる街っぽいですが、というか私自身がそういう理由で「訪れたい街」の優先順位は低かったのですが、今回の訪問でお気に入りの街になりました。カフェ・ハイネマンもあるし。バラックもラウルも住んでるし。(意味不明)

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駅から5分ほど歩いて、「Brauerei im fuechschen」に到着。店に入る前から「いい雰囲気〜」を連発する日本女子(って年でもないですが)三人。
日曜の夜ということもあってか、店内は満員で、活気にあふれていました。これが本場ドイツのブロイハウスの雰囲気!とテンションが上がります。それにしても、店員さんが運んでいる料理のお皿のでっかいことよ。一人では絶対に頼まれへんわ。

テーブルについて、まずはアルトビールを注文。ほどなく「Fuechschen Alt」という、店名を冠した自家醸造ビールが運ばれてきました。コースターの裏に鉛筆で3杯分の線を引いてから、去っていく店員さん。これがデュッセルドルフ式なのだとか。これって、ビールがアルトビール1種類しかないからできる計算方法ですよねえ。それも0.25リットルのグラスのみ。値段は1.80ユーロ。ちなみにミネラルウォーターは同じ0.25リットルで2ユーロ。水よりビールの方が安い!
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アルトとはドイツ 語で「古い」という意味。歴史のあるビールらしく、今風の軽い味わいではありません。水のように飲めるケルシュよりも苦みが強く、麦の味もしっかりあります。お酒が強くない私はケルシュの方が飲みやすかったけど、ケルシュは軽くて物足りないという人は、アルトビールの方が楽しめるのではないでしょうか。

次は料理。メニューに写真などは載っていないので、メニュー名からどんな料理か想像するのみ。それにしてもporkとpotatoの名前が多すぎ(笑)。ドイツ人はどんだけ豚とジャガイモが好きやねん。料理のジャンルがかぶらないように、三人で相談して、「やっぱり外せない」ソーセージと、ポテトグラタン、豚肉と野菜の炒め物の三皿を注文しました。どんな料理で、どんなボリュームかは運ばれてこないと分からないので、「とりあえず、この三皿で様子をみよう」ということに。足りないようなら、追加注文すればいいしと。
しかし運ばれてきた料理は、想像を絶するボリュームでした。これ、もし一人だったら泣きそうになってたと思う。三人で良かった。しかし三人がかりでも食べきれず、結局三分の一くらい残しました。量が多いから、最初はアツアツでおいしかったグラタンも、途中から冷めて固くなってくるし。どの皿にも、これでもかってくらいジャガイモが盛られているし。
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すでにお腹がはち切れそうになってたにもかかわらず、私とTさんは「せっかくだからデザートも食べたいよね〜」。プリンならつるんと食べられるだろうと思い、チョコレートプディングを注文しました。
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……甘かった。運ばれてきたプリンを見て、思わず「でかっ!」。こんなにずっしりと重量感のあるプリンは初めて見た。プリンも自分の重さを支えきれないのか、なんかぷるぷる震えてるし。
そして固い。日本の「なめらかプリン」のように、口に入れるとたちまちトロける舌触りではなく、「ゼラチンたくさん入れてしっかり固めました」って感じの歯ごたえと弾力があります。讃岐うどんじゃあるまいし、プリンに歯ごたえはいらないって(^_^;
そして甘い。なんか舌に残る、単調な甘さ。洋酒とか使ってなさそうで、お子様でも安心して食べられるデザートって感じ。ここでTさんが「ヒロタのシュークリームのチョコみたいな味」と、素晴らしく的確に表現してくれました。確かにヒロタっぽいわ、これ。いや、ヒロタのシュークリームはおいしいですよ。でもあれはシュー皮とクリームのミックスだからおいしいんであって、クリームだけをプリンにしたら飽きると思う。しかも量が多いし。Tさんも「二人で一個で充分だったね」と苦笑しながら、明らかに努力してスプーンを口に運んでいました。私も、周囲のカスタードソースをプリンにかけて味の単調さをごまかしつつ、なんとか完食。どうやら「料理は残してもデザートは残さない」という意地があるらしいです。

誤解のないように言っておくと、ドイツのデザートのレベルが低いってわけでは決してないです。ベルリンのケンピンスキーホテルのカフェで食べた、アップルシュトルーデルは絶品だったし。デュッセルドルフのカフェ・ハイネマンで食べたケーキもおいしかった。つまりブロイハウスはビールと、それに合う肉料理を食べる店だってこと。デザートにまで期待すんなってことですね。

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店内の壁に「自由にお取り下さい」という感じで並べられていた、キツネのキャラクターのポストカード。頼んだ料理が出てくる間、三人でこれらを机に並べて「かわいいー」を連呼してました。よく見るとそんなに「かわいい」キャラではないと思うけど、あのときはみんなテンション高かったので(笑)

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Brauerei im fuechschen
住所:Ratinger Strasse 28・D-40213 Düsseldorf
http://www.fuechschen.de/
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真夜中の不審な訪問者
海外を旅行していると、思わぬハプニングが多い。「この体験はあとで記事にしよう」と思うこともしばしばだ。
だがいざ帰国すると、とたんに執筆意欲が萎えてしまう。だって、いくら記事の中で「さあ大変だ、これからどうなる?」と書いたところで、それを書いてる時点で「無事に日本に帰ってきた」っていうのが分かってるわけで。読者をハラハラさせられない以前に、書いてる自分がハラハラしない。

帰国して、旅行中のハイテンションが醒めてしまうと、「よく考えれば、別にたいした体験じゃなかったよね」と妙に客観的になってしまうことも多い。なので記事にも書けないのだが、それでいいのだと思う。別に、ブログのネタを作るために旅行に行ってるわけじゃなし。旅行中は安全第一。何事もなく帰ってくるのが一番だ。
ただ、自分は安全第一で旅行していても、自分ではどうしようもない状況に巻き込まれ、恐い思いをすることはある。そして今回は自分だけでなく、見知らぬ相手にも恐い思いをさせてしまったかもしれない。そんなお話。

旅のはじまりは10月18日、関西国際空港から。二度目のドイツ旅行の目的は、スタジアムで試合を見ること。5年前は結局、スタジアムで観戦できなかったから。まああれは、事前にチケットを持たずに現地に飛んだ自分が悪い。W杯のチケットが簡単に現地で調達できたら苦労しない。

あの苦い経験を繰り返さぬよう、今回は事前に試合チケットを購入した。もちろん行き帰りの飛行機とホテルの予約もすませた。これで準備は万全。いざドイツへ!
ちなみに今回、選んだ航空会社はKLMオランダ航空。「選んだ」とか偉そうに言ってますが、ようは一番安かっただけっす(笑)。それに乗り継ぎをするスキポール空港の評判がいいので、一度利用したいというのもあった。
予定では、朝10時半に関空を飛び立ち、約13時間のフライトの後、アムステルダムのスキポール空港に15時半到着。一時間ほど空港で過ごした後、ケルン・ボン空港へ。到着は17時55分。まだぎりぎり空は明るい時間だ。そこから電車に乗ってケルン中央駅に着くのが、たぶん18時半。タイミングが良ければ、夕焼けに染まる大聖堂に会えるかもしれない。5年ぶりに見る大聖堂は、茜色の空をバックに、さぞかし荘厳なことだろう。
駅からホテルまでは徒歩10分ほど。もちろんホテルまでの地図はプリントしたけれど、初めて行く道だし、暗くならないうちにホテルに着きたい。だから18時半ごろ駅に着くというのは、本格的に暗くなる直前の、ぎりぎりのタイミングだった。

だが計画通りには行かないのが旅行である。出発当日、関西国際空港に着いた私を待っていたのは、「KLMは3時間ほど遅れます」という電光掲示板の表示だった。アムスに向かう飛行機が、まだ関空に着いていないという。あちゃー。
KLMのカウンターで再度手続きをしたところ、飛行機が遅れたことでスキポール空港での乗り継ぎ時間も大幅に増え、ケルン・ボン空港へ着くのは深夜11時半。これはまずい。せっかく用意したホテルまでの地図が無駄になる。いやそんなことはどうでもいい。ケチケチせずにタクシーを使えばいい。問題なのは、そんな時間にホテルに着いても、中に入れないだろうということだ。
これが近代的なホテルなら、フロントも24時間対応だから、何時に着いても大丈夫なんだろうけれど。私が泊まるホテルは家族経営の小ホテルだから、管理人は夜になると自宅に帰ってしまう可能性が高い。ネットで予約したときも、送られてきた予約完了メールに「チェックインは夜8時まで」と書かれていたし。
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旅行初日に宿泊予定のホテル「イム・クプファーケッセル」
http://www.im-kupferkessel.de/en/hotel_cologne.html


そんなわけでのっけからハプニングに見舞われたドイツ旅行だったが、予定通り3時間後にはアムス行きのKLMに乗り、関空を飛び立った。いや出発が3時間遅れた時点で、すでに予定通りではないのだけれど。でももしかしたらもっと遅れて、最悪、出発が明日になることもありえたわけだし。それを考えると3時間遅れですんで良かった。(こういうのを無理やりポジティブ思考といいます)
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スキポール空港着陸直前、窓の下にはのどかな田園風景が広がっていた。やっぱオランダって農業国なんだなあ。

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スキポール空港は評判通り、近代的で美しい空港だった。ショップも豊富にあり、おかげで3時間ほどの待ち時間を退屈せず過ごすことができた。窓越しに陽がとっぷりと暮れていくのを見たときは、焦りとやるせなさが襲ってきたけど。どうあがいてもホテルのチェックインには間に合わない。遅れることを伝えようと、ホテルに電話を入れる。片言の英語だがなんとか通じた。案の定、管理人さんは夜には家に帰るらしい。だが郵便ボックスに、ホテルのカギと部屋のカギを入れておいてくれるらしい。
それはありがたいけれど、でもドイツのカギって開けにくいんだよなあ。外に街灯とかもないだろうし、真っ暗闇の中で、ドアのカギをちゃんと開けられるだろうか。
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オランダといえばお花。というわけで、空港内のあちこちに花屋さんがあった。面白いのは花よりも、球根の方が目立っていたこと。キャベツのように大きい球根がゴロゴロと並べられているので、一見、花屋というより八百屋に見える。外国人観光客がオランダに何を求めているか、よく分かっているというべきか。

ようやくケルン・ボン空港へ着いたのは夜11時半。ここからSバーンに乗ってケルン中央駅へ。
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ケルン・ボン空港駅のホーム。こんな時間だから人も少ない。深夜の駅のホームの、このなんともいえず寂しい雰囲気が妙に落ち着く。

ケルン中央駅を出ると、当たり前だがすでに真っ暗。茜色に染まる大聖堂を見れるかも、という望みはかなわなかった。それでもひと目見ておこうと、タクシー乗り場に向かう途中で振り返ったとたん、数秒ほど動けなくなった。暗闇にライトアップされて浮かび上がる大聖堂の、想像を遥かに超える迫力に圧倒されたのだ。5年前にもさんざん見ていたはずなのに。何度見てもすごい。こんな巨大で古い建造物が、駅の真ん前にそびえているというのもすごい。
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幸い、タクシーは何台も停まっていた。さすが大都市。タクシーに乗ってホテルへ向かう。外は真っ暗なので、今、どのへんを走っているか全く分からない。車中で運転手のお兄さんと「チャイニーズ?」「ナイン、ヤーパン」などの会話を交わした後、ホテル前に到着。料金をチップ込みで渡した後、「おつりはいらないよ」というドイツ語がなんとか通じた風なのがうれしい。チップをスマートに渡せると、ちょっとだけ旅行レベルが上がった気になる。

タクシーが走り去ると、とたんに静かになった。あたりは閑静な住宅街で、こんな時間だから人っ子ひとりいない。しかしこうした「見知らぬ異国でひとり」という心細さを味わうのも、旅の醍醐味のひとつ……とか自分に言い聞かせているのは、怖かったからだ。いくら治安の良いドイツとはいえ、真夜中にぽつんと外にいるのはやっぱり怖い。幸い、郵便ボックスはすぐ見つかった。下の引き出しに手をつっこむとカギが手に触れた。どうやらこのカギは、郵便ボックスのカギらしい。この郵便ボックスは、大切な郵便物を盗まれないよう、上の部分にカギがかかっているのだ。
暗闇の中、背伸びしながら手探り状態でカギを開ける。中に手を突っ込むと、ぶあつい封筒が入っていた。これだ。封筒を開くと、カギが3つ入っていた。ほっ。
ホテルのドアのカギを開け、中に入る。これで一安心……とはまだいかない。「部屋のカギを開ける」というミッションがまだ残っている。前述したように、ドイツのカギは開けにくいのだ。
だがその前に、「自分の部屋を突き止める」というミッションが残っていた。というのも、封筒の裏に管理人からのメッセージが書かれていて、そこにルームナンバーも記されているんだけど、その文字が読めないのだ。なので自分の部屋が何号室なのか分からない。仕方なく、片っ端から部屋のドア穴にカギを差し込み、開くかどうか試してみた。こんな深夜に、いきなり外からドアをガチャガチャやられて、中にいる人はびっくりしただろうと思う。私も焦っていた。「早く部屋を見つけたい」と思ってカギを回すものの、どの部屋のドアも開かない。縦に長い建物なので、一つの階に部屋は二つほど。階段を上り下りするだけで疲れてきた。早く自分の部屋にたどりついて休みたい。でも自分の部屋どこー?(泣)
半ば自棄になってきたとき、突然ガチャリと音がして、近くの部屋から青年が出てきた。外からドアをガチャガチャやられて、不審に思って出てきたのだろう。申し訳ないと思いつつ、これはチャンスと、今の状況を説明する。封筒に書かれた管理人のメッセージを見せると、青年はあっさり「1番の部屋だよ」。
……これ、「1」って書いてあったんですかー? でも確かにそう言われれば「1」に見える。じゃあ一番はじめに開けようとした部屋が、私の部屋だったんだ。こんなに探し回らなくてよかったんだ……と脱力しながら、青年に礼を言って部屋に向かう。他の宿泊客に迷惑をかけたけれど、なんとか部屋にたどりついた……とはまだいかない。最後の難関「カギ」が立ちふさがったのだ。さっきも開かなかったドア。やっぱり今度も開きません。ドイツのカギの開け方を、旅行前にネットで調べて復讐しておけば良かったと後悔してももう遅い。
そしてここでもまた、さっきの青年が助けてくれた。ドアが開かずに困っているのを見かねたのか、背後から声をかけてくれ、私の代わりに、あっさりドアを開けてくれたのだ。なんてよくできた青年でしょう。ドイツ人ってお年寄りから若い人まで本当に親切。見習いたい。

こうして、ようやく部屋にたどりついた。その後のことは覚えていない。たぶんテレビも見ずに寝たのだと思う。やれやれ、旅行一日目からこんな苦労をするとは思わなかった。でもそのぶん、貴重な教訓を得た。飛行機が遅れるなどの不測の事態に備えて、旅行一日目のホテルは、24時間対応のホテルにしておけ。以上である。

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郵便ボックスに入っていた三つのカギと、管理人からのメッセージ

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ようやくたどりついた部屋は、モダンで明るい雰囲気だった。
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