何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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華氏451度
※ネタバレあり。

『華氏451度』
レイ・ブラッドベリ/宇野利泰訳 ハヤカワ文庫

ここんとこ仕事が忙しくて、全く本が読めてなかった。活字中毒かってくらい活字好きなので、本を読む暇がないときはネットで活字を追うことになる。ネットは手軽にいろんな情報を得られてラクだけれど、やはりネットだけだと物足りない。たぶん、ラクすぎるのだと思う。ネットの場合は文字だけで内容を伝えるってことがほとんどなく、たいてい写真や絵などの「画像」がついてくる。むしろ文字より画像がメインだ。そうしないと視聴者からそっぽを向かれるからだろう。私は活字好きなので、知りたい情報を検索してクリックした先が、文字でびっしり埋まったページだったらもう嬉しくてワクワクするけど。でもネット黎明期の頃に比べて、今はそういう「文字だけのページ」は本当に少なくなった。

そこでやっぱり本に回帰するのである。欲しい情報だけ手軽に得られるネットと違い、本は一冊読み終えるのに根気と集中力が必要なことも多い。読み進む途中でいらいらしたり、「なんで?」と葛藤することも多いけど、それでも最後まで読み終えると深い満足感を得られる本が好きだ。(もちろんそういう本ばっかりじゃないけれど)

忙しくて本を読めない生活が続くと、心に余裕がなくなってくるのが分かる。先日ようやく仕事が一段落したので、約二ヶ月ぶりに図書館に行った。そこでたまたま、手にとったのが『華氏451度』。昔から読みたいと思いつつなかなか読む機会がなかったこの本を、「やっぱり本が必要」と飢えているこの時に手に取ったことに、運命のようなものを感じる……なんて書くのはちょっと大げさか。でもタイトルは昔から知っていても、内容については全く知らなかった。だから、読みながら「これぞ今の私にぴったりな本」だと、その偶然性に驚いた。
50年前の作品だから、ちょっと古くさいと感じる部分もある。科学や技術への極端な拒否反応(登場人物ではなく、作者の)とか、この当時のSFにありがちだな〜と。救いのない未来を描いている点は、ジョージ・オーウェルの『1984年』に似てると感じたけれど、最後まで救いがなかった『1984年』に対し、この『華氏451度』は最後にほのかな希望を残して終わる。なので読後感は『1984年』に比べてずっといい。だがふと思い返すと、『1984年』の場合は政府が国民に強制する形で、ぞっとするような社会を作っていた。だがこの『華氏451度』では、登場人物のセリフにもあるように、政府は何も命令を下していないし、監視も検閲もしていない。政府からの強制ではなく、国民自らが自発的に、「本を読むことも持つこともタブー」とされる異様な社会を作り上げたのだ。そのことに気づいたとき、救いがないのはむしろ『華氏451度』の方ではないかと思った。ちなみに華氏451度とは「本のページに火がつき、燃え上がる温度」なのだとか。

ヒロインかと思われたクラリスがあっさり退場(しかも死んだかどうかはっきりしない)したことに、ちょっと拍子抜けしつつも感動(笑)。ヒロインの魅力で読み進めさせるタイプの小説じゃないってことだよね。その潔さが良い。主人公であるモンターグの奥さんがあまりにも馬鹿っぽく描かれているのは、いかにも「すぐ洗脳される馬鹿奥さん」のステレオタイプでちょっと辟易しちゃったけど。そんなわけで物語の前半はあんまり引き込まれなかったけど、モンターグがフェイバーに「この国に、残存している聖書は何冊ありますか」と尋ねるシーンから、ぐんぐん物語に引き込まれた。そして世界にたった一冊残っていた聖書を持って、地下鉄に乗るシーン。フェイバーが「わしは宗教心の強い方ではない」と言いながらも、その聖書を懐かしそうにめくり、書物の匂いをかぐシーン。「書物はすべてナツメグのように、異国から来た香料の匂いがする」というセリフにも共感した。
モンターグがフェイバーに重い腰をあげさせるために、わざと聖書のページを一枚ずつ破るシーンで、フェイバーが「たのむ、もうやぶらんでくれ!」と必死で懇願するシーンは自分のことのように胸が痛んだ。やっぱり聖書のように、自分も親しんでいる(というほど読み込んでる訳ではないけど)書物が登場すると、本の内容にぐんとリアリティが出てくるなあ。

実はブラッドベリの小説を読んだのはこれが初めてなんだけど、なるほど「詩人」と呼ばれるのも分かる、叙情あふれる詩的な文章が多い。なのでSFというより文学を読んでいる感じ。特に後半はモンターグの逃亡劇が描かれていてサスペンス感たっぷりなんだけど、ハラハラしながらページをめくりつつ、散りばめられた詩的なひとことひとことが胸に響いて、早く先を読みたい気持ちと、もっとこの文章をじっくり味わいたい気持ちとがせめぎあってなかなか辛い(笑)。
特に一人ひとりが図書館の役目を果たしている浮浪者集団と出会ってからは、名文章、名台詞の連続だ。それまで本を燃やす仕事をしていたモンターグ。「火は奪うもの」としか思っていなかった彼が、浮浪者集団が囲んでいるたき火を見て、初めて火のあたたかさに気づく場面は、私がこの本でもっとも心に残った場面かもしれない。他にも、「見かけはただの浮浪者に過ぎんが、頭の中はそれぞれ図書館だ」「表紙を見ただけで、書物の価値を決めなさるな」など、心に残るセリフが多い。
確かに終わり方はちょっとあっけなくて、「え、ここで終わり?」と思ったけれど。「おれたちの戦いはこれからだ!」的な終わり方だ(笑)。でも主人公たちの「その後」に思いをはせられる分、絶望的なバッドエンドよりずっと良い。

ところで私が『華451度』を初めて知ったのは、実は小説ではなく映画でだった。この映画もいつか見たいと思いつつ、「まずは原作を読んでから」という思いがあって今まで見ていなかったのだが、原作も読んだことだし、内容がはっきり頭に残っている今のうちに見てみたいと思う。

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