何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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ビロードうさぎ
※ネタバレあり。

『ビロードうさぎ』
マージェリィ・ウィリアムズ/いしい ももこ 訳/ウィリアム・ニコルソン 絵 童話館出版

内容は同じでも、酒井駒子の絵と妙訳による『ビロードのウサギ』の方が日本では人気らしく、図書館で貸出中になっていたのも酒井駒子バージョンの方。なので、妙訳ではない「原文」をそのまま訳したこちらの本を借りてきた。結果的に、先にこちらを読んでよかったと思う。90年に渡って読み継がれてきた名作は、やはり抄訳ではなく原文そのままで味わいたい。というか個人的には、いくら原作が子どもにはちょっと長いからといって、部分的に訳して出版するというのは、原作への敬意を欠いた行為に思えて好きになれない。長年に渡って読み継がれてきた名作であればなおさら、原文そのままをこどもに与えるべきじゃないだろうか。原文の長さだけでなく内容も、子どもにはちょっと難しいと思われるからこその「抄訳」なのかもしれないが、それは子どもの受容力を低く見積もり過ぎている。自分の子ども時代を思い返しても、最初に読んだ時にはよく分からなくても、想像力を働かせてなんとか受け入れようとしたし、年齢を重ねてから読み返して、より深く理解できることに喜びを感じたりする。もちろん一度読んだらそれっきりという本もあるけれど、この本は年を重ねてからの再読にも充分耐えうる内容だ。
イラストも、いかにも子ども向きの「かわいい」絵柄じゃないので初めはとっつきにくいかもしれないが、見れば見るほど味が出てくる実にいい絵だ。特に見返し部分に印刷されたビロードうさぎのパターン(模様)は秀逸。この柄のカーテンがほしい。
日本人画家が描いた、より子ども向き(というか日本人向き?)の「かわいい」絵柄のうさぎが出てくる酒井駒子バージョンの方が人気があるのも分かるけれど、それによって、原文を忠実に訳したこちらのバージョンがあまり読まれなくなっていくのは残念だし寂しい。原文に忠実というだけでなく、いしいももこの訳も素晴らしい。日本語の美しさ、味わい深さをしみじみと堪能できる。

内容について。読みながら、なぜ「ほんもの」と訳さずに、「ほんとうのもの」と、あまり耳慣れない日本語に訳しているんだろうと思っていたが、読み進めるうちに「なるほど」と。原文では「ほんとうのもの」と「ほんもの」をそれぞれどう表現しているのだろうかと、原文を確かめたい気持ちになった。
面白かったのは、今では「レトロ」「古き良き時代」の代名詞のようになっている「機械仕掛け」「ゼンマイ仕掛け」が、この本の中では最先端のハイテクおもちゃとして登場すること。この本が出版されたのは1922年。時の流れを感じずにはいられないが、どれだけ時が流れても、決して変わらないものもある。お気に入りのおもちゃにかける子どもの特別な愛情も、そのひとつだろう。ぎゅっと抱きしめたり、ベッドで一緒に寝たり、顔にキスしたりして、子どもがそのおもちゃを愛すれば愛するほど、おもちゃはぼろぼろになっていく。でもそうやって「ながいながい間、そのおもちもゃをただの遊び相手ではなくて、しんからかわいがっていたとする。そうするとそのおもちゃは、ほんとうのものになるのだ」。
この本に出てくるビロードうさぎも、ながいながいときを「ぼうや」に愛されて過ごすことで、すっかり古ぼけたみすぼらしい姿になっていく。ビロードがすり切れ、ひげはみんな抜け落ち、形も崩れて、もうぼうや以外の人にはうさぎだとは分からないほど。だがただ一人、ぼうやにだけはまだ美しいうさぎだったのだ。そしてうさぎも、他の人たちにどう見えようと、そんなことはどうでもいいと考える。自分を愛してくれるぼうやにとっては「ほんとうのうさぎ」なのだから、自分のみすぼらしさなど気にする事はないのだと。

見た目の立派さや美しさにとらわれずに、ほんとうに大切なものを見つけて、それを愛するということ。そんなメッセージがこめられているように思うこの作品が、原文をそのまま訳したバージョンではなく、かわいい絵がウリの抄訳バージョンの方が人気があって有名だというのは、ある意味皮肉ともいえる。結局みんな「見た目」優先なの? というか。もちろん酒井駒子の絵はただかわいいだけでなく、情緒にあふれて素晴らしいんだろうけれど、文章が「抄訳」であることが、どうしても私にはひっかかる。冒頭にも書いたように、古典的名作は「何も削らず、何も足さない」オリジナルなバージョンを伝えていくべきだと思うから。
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