何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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レヴァークーゼンに泊まる。〈二泊目〉
目覚めたのは朝、6時半ごろ。窓際のベッドで眠っていたので、布団にもぐったまま、窓から外の様子が見えた。10月下旬ともなると日の出が遅く、窓の外はまだほんのりと暗かった。それでも、遠くにたなびく煙突の煙がはっきりと見える。その煙を見た瞬間「私は今、レヴァークーゼンに来ているんだ」と思い出した。
そしてすぐに布団をはいで飛び起きた。いつもは朝、目覚めてもしばらくは布団の中でぐずぐずしているくせに、旅行中だけは早起きだ。だってせっかくレヴァークーゼンに来ているのに、ぐずぐずしていたらもったいない。
ベッドの上でごそごそと着替えているうちに、次第に窓の外が明るくなってきた。澄みきった早朝の空気の中に、昨夜見た時よりもくっきりと、レヴァークーゼンの街並みが浮かびあがってきた。


視線を右にずらすと、とんがり屋根の住宅街が広がっていた。どの家の屋根もレンガ色をしているのは、あらかじめ色調を合わせて建てられているからだろうか。統一感のある美しい街並みを、色づき始めた紅葉がさらに引き立たせていた。

左に見えるのは、駅前の高層マンション。日本だと、駅前のこうしたマンションは利便性から人気があるが、ドイツ人はマンションに住むことをあまり好まないとか。確かにこうして見ると、一応屋根と壁の色を他の家に合わせているものの、この街並みから若干浮いているような。
だが視線を左にずらして視界にバイエルの工場群を入れると、マンションの浮き具合が目立たなくなり、代わりにこの街ならではのユニークな景観が見えてくる。右半分はレンガ色の屋根が並ぶ住宅街、左半分は工場やマンション、ショッピングモールなどの近代的な建物群と、見事に真ん中で分断されているのだ。
だが不思議とチグハグな街という印象はない。それはたぶん、あちこちに茂っている豊かな緑のおかげだろう。
とんがり屋根の住宅街と、工場、商業施設が自然に囲まれて共存しているユニークな街。それが、窓から見たレヴァークーゼンの第一印象だった。
そうこうしているうちに日差しがみるみる明るくなり、色づいた紅葉を鮮やかに照らし始めた。どうやら今日は快晴のようだ。
「KINOPOLIS」とロゴが入った建物は、昨夜、買い出しに行ったショッピングモールに併設された映画館。

魅入られたように窓辺に立って眺めながら、ふと感じた。この街はどことなく、ドイツらしくない。それはいったいどうしてだろう……と秋の空を見渡して、はっと気づいた。古いドイツの街(つまり観光客がよく訪れる街)なら空に何本もそびえているだろう教会や大聖堂の尖塔が、ほとんど見あたらないからじゃないだろうか。
つまり、空に十字架がない。代わりにそびえているのは、製薬工場の煙突と、その煙突が吐き出す煙。と書くと、なんだか殺風景な街のようだけど、この街で生まれ育った人にとっては、あの煙突もまた、愛すべき街の象徴なのだと思う。他のドイツの街の住民が、自分が生まれる前からずっとそこにある教会の尖塔を見て安心するように。レヴァークーゼンの住民も、旅行から帰ってきた時などに、あの煙突を見て安心するのではないだろうか。絶えず白い煙を吐き出している煙突を見ながら、そんなことを感じた。

もちろん、この街にも教会がない訳ではない。この窓からも、工場の煙突と重なるようにして、クライストキルヒェ(Christuskirche/ドイツ語で「キリスト教会」)の尖塔が見える。だが窓から見えるのは、かろうじてその一本だけ。そして私が朝食後に行こうとしているのもその教会だった。だって今日は日曜日。午後からはバイアレナでサッカー観戦をする予定だけど、午前中は教会に行って礼拝を守ろうと思っていた。5年前のドイツ旅行で、結局礼拝に行けなかったリベンジもあるし。

※この後の教会行きについては「教会に行く・5年ごしのリベンジ編」を参照。

この日、私が礼拝に出席したクライストキルヒェ

レヴァークーゼンを歩く

さて、日曜朝の礼拝にも出席して5年ごしのリベンジを果たした私は、満ち足りた気分で教会を後にした。午後三時半キックオフの試合までにはまだ時間があるので、それまでレヴァークーゼンを散策しよう。といっても迷子になってはいけないので(私は極度の方向音痴)、歩くのは駅周辺に限られるけれど。

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教会を出ると、すぐ横手に、この界隈のメインストリートともいうべき通りがある。車が通行できない「歩行者天国」になっており、道の両脇にはショップなどが並ぶショッピングゾーンだ。
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右手には、昨夜買い出しに来たショッピングモール「ガレリア」。昨夜はこのモール内のスーパーにしか寄らなかったので、他にどんな店があるのか見てみたかったが、それより先に行きたいところがあった。レヴァークーゼンのファンショップ「BAYER04-SHOP」 だ。
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日曜日なので店が開いているかどうか不安だったが、とりあえずプリントアウトしてきた地図を頼りに行ってみる。遠くから、見慣れたライオンのロゴが見えた時は「やった」と思ったが、近くに行くと、やっぱり閉まっていた……がっかり。まあ三日前に、バイアレナ内にあるファンショップには行っていたので、この路面店もバイアレナ内のショップと品揃えはあまり変わらなかったかもしれないけれど。
そしてよく見ると、店内全体がクラブのショップスペースという訳ではない模様。ショーウィンドーから察するに、店内の左半分がショップスペース、右半分がバイエル経営の旅行会社のスペースのようだ。
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BAYER04-SHOPがある通り。清々しい朝の空気の中をジョギングしている女性がいた。

それにしても、どの道も本当にきれいに舗装されている。5年前、ケルンに住む知人の家に泊めてもらった時に、その人がライン川の向こう岸にあるレヴァークーゼンの街を指さして「あそこはバイエル社があるから街が裕福で、道路がきれいに整備されている。ケルンから車で走っていると急に道がきれいになるので、『あ、ここから先はレヴァークーゼンだな』とすぐ分かる」と話してくれたことを思い出した。
街を歩きながら、もう一つ思い出した。今回、試合観戦と練習見学をご一緒させてもらったオカジさんはかつてドイツに住んでいた経験があるが、その彼女が「私はレヴァークーゼンには絶対に住めないと思った」と言っていたことだ。それを聞いた時はピンとこなかったが、今、実際に駅周辺を歩いてみると、なんとなく分かる気がした。きっと、街並みが小綺麗すぎるのだろう。道路だけでなく建物も、比較的新しく建てられたものばかりで、ドイツの街を歩くとしょっちゅう出くわす「中世の時代からそこにあるような古びた建物」が見あたらない。つまり、街の歴史があまり感じられないのだ。だからきっと、わりと新しい街なのだろう。古いドイツの街にはたいていあるマルクト広場もないし。その代わりに、駅前にはバス乗り場やロータリーがあり、その奧にはショッピングモールがあったりと、便利で機能的に作られているんだけど、便利すぎるところがかえって「人工的な街」という印象を抱かせて、昔ながらのドイツの街が好きな人にはなじみにくいのかもしれない。

でも、駅前こそ人工的だけれど、少し足を伸ばせば緑は豊かだしライン川は流れているし。自然あふれる郊外の小さな町という感じで、定年を迎えた老夫婦がのんびり老後を過ごすにはぴったりな町だと思った。特に、駅からバイアレナへ向かう川沿いの道は、まるで絵画のような美しさ。DSC_0726.jpg
とはいえ、駅周辺をちょっと歩いただけの私に、レヴァークーゼンの何が分かるという気持ちもある。せめて1年くらい住んでみないと、この街の本当の姿は見えてこないのではないかと思った。
バイアレナ(左奧の白い建物)へと続く並木道
※バイアレナ周辺については「サッカークラブがある街の日常。」も参照。

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ショッピングモールのある大通りに戻ると、さっきよりも幾分人が増えていた。
ショッピングモール内の広場。真ん中の噴水には囲いがなく、子どもたちが自由に水遊びできるような、ウェルカムな作りになっている。
今は秋なので水浴びする子どもはいないが、夏場はきっと賑わっているのだろう。
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モール一階の通行路を自転車で走り回っていた少年三人。自転車で走ってもいいぎりぎりのところでストップして、その先にあるガラス張りのショップゾーンを見上げていた。
自転車に乗っていない私は、彼らを追い越して先に進んだ。
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モール内の二階へと続くエスカレーター。さっそく上ってみた。DSC_0706.jpg
モールの二階。ガラス張りの天井からふりそそぐ自然光といい、植樹されている木といい、南国リゾートをイメージさせる明るい空間だが、日曜日なのでどのショップも開まっており、人通りがほとんどなかった。(ドイツに限らずヨーロッパのキリスト教国では『日曜日は安息日』という聖書の教えに従い、日曜日はほとんどのお店がお休みにな
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だが上を見上げると、人の代わりに鳩がいた。まるで気持ちよさそうに日光浴をしているよう。

モール内一階のカフェ。「日光浴を愛するドイツ人はテラス席がお好き」とは聞いていたが、外を歩くほとんどの人がコートを着ているこの寒い朝でも、テラス席でお喋りをしている女性たちを見て驚きつつ、感心する。膝に膝掛けをかけているけれど、それでも寒いだろうに。どんだけテラス好きやねん。傍らに犬がいるところも、いかにもドイツ人っぽくて微笑ましい。
他にもテラスを利用するお客が多いのか、他の椅子にもあらかじめ膝掛けが用意されているのが壮観。どんなに寒かろうが、少しでも日光を浴びようとするドイツ人の執念を垣間見た気がした。
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ショッピングモールを出ると、お昼近くなったからか、さらに人が増えていた。試合のある日らしく、レヴァークーゼンのユニフォームや、対戦相手のシャルケのユニフォームを着た男性がちらほらいる。
左手にある青い看板はベーカリー兼コンディトライ(ケーキ屋)。店内にはカフェスペースもあったが、まだそれほどお腹が空いていなかった(バイキング形式の朝食をたらふく食べた)ので、ケーキを一個テイクアウトした。
さらに駅前にある「Mr.Chicken」というチキン専門のハンバーガー屋さんでバーガーとチキンを購入。ホテルに戻ってそれらをいただく。私が泊まった部屋には冷蔵庫がついていないので、バーガーを食べ終わるまでケーキを冷やしておくことができず、さあ食後のデザートを食べようという時にはクリームが溶けかかっていた。DSC_0717.jpg

タクシーに乗せてくれない運転手?

昼食の後は、いよいよバイアレナでブンデスリーガ観戦だ。ベルリンで買ったユニフォームをバッグに入れて部屋を出ると、偶然、レヴァークーゼンのユニフォームを着た青年とエレベーター前で出会った。背中を見ると、一昨年までレヴァークーゼンで活躍していたヒーピアのネームと背番号。思わず「ヒーピア! ヒーイズ・ベリーグッドプレイヤー!」と片言の英語で話しかけると、彼は目を輝かせて、自分がいかにヒーピアが好きかを話し出した。もちろん私には彼の話す言葉の正確な意味は分からないが、とりあえず話を合わそうと、背伸びをして「ヒーピア、ベリーベリートール」とか相づちを打っていると、エレベーターが一階についた。これからバイアレナに行くというヒーピアファンの青年に「グッドラック」と言って別れる。自分もこれからバイアレナに行くのに、そのことを伝えられない自分の英語力がもどかしいが、かといってもっと英語を話せるように勉強しよう!とならないのは、さっきのように適当に英単語を並べるだけでも、それなりに簡単な会話ができてしまうからかもしれない。

※この後のバイアレナ行きについては「バイアレナに行こう」を参照。

念願のブンデスリーガ観戦だったが、残念ながらシャルケに0対1で惜敗。試合観戦後はデュッセルドルフに行き、ビアレストランで晩ご飯(「キツネと豚とジャガイモの夜」を参照)。

食事を終えて電車に乗り、レヴァークーゼン・ミッテ駅に降り立ったのは夜11時頃。駅からホテルまでは徒歩10分とはいえ、深夜に人気のない場所を歩くのは危ないだろうと、私は最初からタクシーに乗ろうと決めていた。幸い、駅前には何台もタクシーが止まって客待ちをしていたが、私がそのうちの一台に「ベストウェスタン・レヴァークーゼンまで行きたい」と言うと、運転手の男性はさっと後ろを指さして「そのホテルなら、あそこに見えてるよ」。
いやいやいや(笑)。あそこに見えてるのは知ってるけど、歩いていくのは危険じゃないかと思ったから、タクシーに乗せてってもらいたいわけで。でもタクシーの運転手からこういう反応が返ってくるあたり、深夜に一人で歩いても安全な街なのだろう、レヴァークーゼンは。しかしこの時は疲れていたこともあり、「乗せてほしい」と頼んだら、快くタクシーでホテルまで連れて行ってくれた。

部屋に戻ると、後はお風呂に入って寝るだけ。レヴァークーゼン最後の夜は、今回のドイツ旅行最後の夜でもあった。サッカー観戦もできたしインゼル・ホンブロイヒ美術館にも行けたし、まあまあ良い旅だった、と思う。心残りがあるとすれば、レヴァークーゼンに二泊もしたわりに、結局ほんの少ししかこの街を歩けなかったことだろうか。明日の朝にはホテルを出て、そのまま帰国の途につくし。だがこの「もうちょっと滞在したかった」という名残り惜しい気持ちを残して帰国する方が、その街がいつまでも後を引く思い出になって、心に残るのかもしれない。そんなことを考えながら、ドイツ最後の夜は過ぎていったのだった。

※2011年のドイツ旅行記はひとまずこれで完結。以下「続きを読む」に拍手への返信です。

12.25
西さん

「待ってました」と言ってくださりありがとうございます!でもドイツ旅行記はひとまずこれで終わりなんですよね……もし続きを待っててくれたのなら申し訳ない。
次は、まだ手をつけてなかったアメリカやロンドンの旅行記をぼちぼち書いていく予定です。忘れないうちに(笑)。
旅先で、地元民ご用達のお店に行くと楽しいですよね。雰囲気もいいし、コスパもいい(ここ重要)。
そういうお店を探すには現地で地元民に聞くのが一番早いと思うんですが、私の場合は語学ができないので難しい。なので現地に住んでる日本人のブログなどで、おいしい店情報を探して行きます。日本人好みの味なので大きく外れがないのもイイのです。 
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素敵な旅行日記!
私は旅行があまり好きじゃないので、国内すら(…というか私の住む関東地方すら)行ったことのない観光地が山盛りあるのですが、めえこさんの文章が後押ししてくれそうです(笑)。ドイツか〜友達が大学時代、留学して帰ってきたけどその町によってかなり違うみたいですよね。そういうのいつか見に行ってみようと思います♪

よいお年を!
thewhitenotes | 2012/12/31 13:51
コメントありがとうございます!
ドイツは「ドイツ」という統一国歌になったのが近代で、それまではそれぞれの街が国みたいなものだったので、街によってほんと個性豊かですよ〜って、私もまだ二回、しかも西地方しか行ったことないのに知ったような口聞いてますが(笑)。でも隣街のケルンとレヴァークーゼンですら、街の雰囲気が違いますし。いつか機会があれば、ぜひ♪ 
ただひとつ注意したいのは、日曜日にショッピングの予定を入れないこと、でしょうか。今では教会に行く人が減っているとはいえ、それでもキリスト教国なので、日曜日はほとんどのお店が休みになるのです。いつでもコンビニが開いている日本からすると不便ですが、そういうところにもまた「非日常」を感じて、リフレッシュできるんですよね。
めえこ | 2012/12/31 19:05
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