何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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何かが道をやってくる
※ネタバレあり。

『何かが道をやってくる』
レイ・ブラッドベリ/大久保康雄 訳 創元SF文庫

おかしい。ディーン・R. クーンツが『ベストセラー小説の書き方』巻末の読書ガイドで、この作品を恐怖幻視小説としておすすめしていたから、ブラッドベリのホラー系が好きな私はわくわくしながら読んだのだが。いくら読み進んでも、ちっともホラーっぽくならない。せいぜいダークファンタジーといったところ。あ、でもクーンツのいう「恐怖幻視小説」って、ダークファンタジーのことだったのかも。私が勝手にホラーと解釈しただけか。
しかし、ホラーではなくダークファンタジーだったとしても中途半端だ。幻想的なムードが漂っているのは物語の前半だけで、後半からは急にファンタジー色が薄くなり、敵に追いかけられるサスペンスの連続になる。だがそのサスペンスも、「主人公たちは絶対に死なねーな」と分かりきっているからちっともハラハラドキドキしない。たぶん、ダークファンタジーの雰囲気をまといつつも、根本に流れるテーマは「少年たちの成長物語」「父と子の絆」だからだと思う。最後は「少年が成長してめでたしめでたし」で終わるのが分かりきっているから、死ぬわけがないし。ジムが仮死状態に陥ったときも、ちーともハラハラしなかった。

のっけからぶーたれててすみません(しかも新年最初の記事で!)。私はこういった、少年を主人公にした成長物語が別に嫌いなわけじゃないんだけれど。じゃあなぜ辛口になるかというと、やはり「面白くなかった」という一点につきる。その理由の一つに、主人公である少年たちの魅力のなさがあると思う。特にウィルがあまりにも優等生すぎる。心優しく友達思いで、それでいていざという時には勇敢で行動力があり、賢くて機転が利いて、そして父親が大好きで尊敬している。なにこの完璧超人。普通、このくらいの年頃の少年ならそれなりに親に不満を感じていたり、反発したりするもんだろ。あまりにもいい子ちゃんすぎ。大人の作者が思い描く「理想の息子」って感じで、ちっとも現実の少年ぽくない。まだ、もう一人の主人公であるジムの方がこの年頃の少年らしくて共感できる。
いい子ちゃんといえば、『火星年代記』に収録されている短編『百万年ピクニック』の主人公ティモシィ少年も物わかりの良い、いい子ちゃんだった。もしかしてブラッドベリ自身が、そうした優等生的な少年だったのかもしれない。だが短編ならまだしも、長編の主人公として物語をひっぱっていくには、『何かが道をやってくる』のウィル少年は個性と魅力に欠けるように感じる。作者もそれを感じたのか、終盤ではほとんどウィルの父親が主人公になっちゃってるし(笑)。

主人公だけでなく、敵役の魅力も今ひとつだ。初登場のシーンでは幻想的なムードをまとっていたダークが、後半、単なるガラの悪いチンピラになってしまっているし。(チンピラ風の言葉遣いに訳した翻訳者にも問題があるような気もするが)
主役と悪役に魅力ナシじゃ、そりゃ読み進めるのが苦痛になるわ。実際、後半は「ここまできたら最後まで読み終えなくては」という義務感だけでなんとか読み終えたようなものだもの。そこまで我慢して読んでも、結局最後まであんまり面白くなかったというのが辛い。

私の読解力が足りないせいかもしれないが、解決されていない謎や仕掛けも多すぎる。「地上最高の美女」はどうなった? あの晩、ジムが避雷針を屋根から外して、具体的にはどうなったの? そしてミス・フォレーはあれからどうなった? 彼女は結局幼女にされたまま? 回転木馬に彼女を乗せて元に戻してあげるのかと思っていたら、その回転木馬を主人公たちが壊してしまうし。最後には誰もミス・フォレーのことを思い出しもしないし。
物語の前半であれこれともったいぶった謎の描写をしておきながら、それらが全て肩すかしに終わったようなモヤモヤとした読後感。そういった「謎」は単に雰囲気づくりのためだけで、別に答えなどは最初から用意されていないのかもしれない。しかしそういう作品は私には合わない。「雰囲気イケメン」という言葉があるなら、この作品はさしずめ雰囲気ホラー? いかにもこれから怖くなりそうな雰囲気をかもしだしながら、実際はちっとも怖くないという。

しかしあれですね。ここしばらくブラッドベリにハマってその小説を読んできたけど、たった一作、自分的に「つまらん」作品に当たっただけで、もうしばらくブラッドベリは読みたくなくなるんだから勝手なものだ(笑)。でもそれだけ、読み終えるのに疲れたんだもん……長編だから特に。「きっとこれから面白くなるはず」と我慢して読み進めて、結局最後まで面白くならなかった時の疲労感といったら。と同時に、「ようやくこの本から解放される!」という開放感もまた格別だったりする。困難な仕事をやり遂げた達成感というか。「よくぞ途中で放り投げずに、最後まで読み通した」と自分で自分をほめてあげたい(そこまで言うか)。
冒頭に紹介したクーンツの読書ガイドで、クーンツが「ブラッドベリの本領は短編である」と書いていたけれど、この作品を読んだ後では私も「そうかもなあ」 と。でも最初に読んだ『華氏451度』は長編だけど面白かったし。結局は長編短編関係なく、この作品が私には合わなかったということか。
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