何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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たったひとつの冴えたやりかた
※ネタバレあり。

『たったひとつの冴えたやりかた』 
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/浅倉久志 訳 早川書房

タイトルは昔から知っていて、読んでみたいと思いつつ、少女漫画チックな表紙(実際、少女漫画家が描いている)に気後れしてこれまで読む機会がなかった。だっていかにも昔のコバルト文庫みたいな表紙なんだもん(コバルト文庫ってこういう語り口調のイメージ)。コバルト風味の小説が苦手な私は、表紙だけでなく内容もコバルト風味なのではと躊躇していた。
しかも挿絵付きときた。表紙だけならカバーを外す・または上から別のカバーをつけるなどすれば気にならないけど、挿絵となるとどうしても目に入ってしまう。私は基本的に挿絵の入った小説は苦手だ。読みながら、登場人物や情景を自由にイメージできるのが小説の楽しさなのに、そこに挿絵が入るとどうしてもイメージが限定されてしまう。まだ、抽象的でシンプルな挿絵なら読み手が想像できる余地があるけど、この作品は挿絵も少女漫画絵なのだ。その絵が好きな人には申し訳ないが、読みながら自由にイメージを膨らませたい者にとってははっきり言って邪魔。(この場合、その絵が上手か下手かは全く関係ない)

だが最近になって早川から、装丁が変わって挿絵もなくなった単行本が出たと知り、さっそく図書館で借りてきた。ありがとう早川……と思ったら、なんだかえらく薄っぺらい。調べたら、元の中編集からもっとも有名な表題作だけを抜き取って単行本にしたものらしい。……えー、それって、アリなん? 作者が「三部構成の中編集」として出版したものから一作だけ抜き出すとか。確かにもっとも有名なのは表題作だけど、三部構成になっている以上、他の二作も読んでみたかった……と、表紙が変わったら変わったで、今度は構成について文句を言うわたし^^; わがままだなあ。

まあ、元の「三部構成の中編集」はまた後日読むとして、とりあえずこの作品の感想を。「泣ける」と評判の本作だけど、私は泣けなかった。同じく「泣ける」と評判の『アルジャーノンに花束を』は号泣したのに。とはいえ決してこの作品が「つまらなかった」訳ではない。ヒロインのコーティーが昔のコバルト文庫を彷彿とさせるキャラだった時には(やはりこの内容にしてあの漫画絵の表紙だったか)とイヤな予感がしたけれど、読み進めるうちに、いい意味で裏切られた。ライトノベルのような軽いタッチで進みながらも、中盤からどんどんホラー色が強くなり、そして最後の悲劇的結末。コーティーが青春ラブコメに出てきそうな感じの明るく元気なヒロインだけに、後半のホラー的展開と悲劇的結末とのギャップが意外で、私はそこが面白かった。まだ10代なのに人間できすぎてるだろうっていう違和感はちょっぴりあるけど。これから自分の脳を、脳に寄生しているエイリアンに食べられるかもしれないって時に冷静すぎる。最後も、あっさり決心しすぎのような。もうちょっと葛藤するような描写があってから、「たったひとつの冴えたやりかた」を選んだ方がよりリアリティがあったような気もするけど、それだとコーティーのキャラ設定がブレちゃうのかな。最後まで明るく前向きなヒロインという設定が。
コーティーとシロベーンの友情も胸を打つけれど、私がもっとも印象的だったのは、二人の冒険が終わった後。コーティーが残したカセットを聞いている間はシロベーンに対して「くそ忌々しい癌のくせに」と毒づいていたコーティーの父親(親としては当然の反応だが)が、カセットを全て聞き終わった後、コーティーが目指した星を「コーティーの星」と命名しようという通信部長の提案に、「コーティーとシロベーンの星だ。みなさん、もうお忘れかね?」と言い返す場面。はっきりとは書いていないけれど、あれはたぶん父親の言葉だと思う。自分の娘が最後に「シルのことを忘れないで」と言い残した言葉に、応えたのだろう。そう思うとなんとも切ない。

他に気になった点といえば。シロベーンの言葉使いが最後まで礼儀正しい「ですます」口調だったのは、あれは原文でもそうなのだろうか。コーティーがタメ口なのにシロベーンが丁寧語なので、あんまり「対等な友人」という感じがしなかったのがちょっと残念。まあ、翻訳SFに出てくるエイリアンってなぜかたいてい丁寧語なんだけれど。
でもその丁寧語のおかげで、シロベーンがまるで初々しい新入生みたいな印象になっているのも確か。特に連邦基地に送るカセットにメッセージを吹き込む際に、「はじめまして、ヒューマンのみなさん、どうかよろしく!」と話しかけるシーンは微笑ましい。まだ未熟ながらも、ヒューマンと友好的で有意義な交流をしようと精一杯頑張っているのが伝わってくる。今まで読んできたSFの中で一番かわいいエイリアンかも。だからこそ、この真面目で初々しいシロベーンが、原始的な衝動を抑えきれなくなってコーティーを傷つけそうになり、「助けて! わたしは野獣になりたくありません!」と叫ぶシーンが痛ましい。どんなに二人が互いのことを大切に思っていても、それでも「種族の違い」はどうにもならないものなのか……と胸がしめつけられる。
そしてラスト。カセットを全て聞き終えた司令の心の目に浮かんだイメージが美しい。種族の違う二人の子どもが手をたずさえて、太陽へと突進していくシルエット。やはりこの小説に挿絵は不要だ。ラストのハッとするほど美しいイメージは、読者それぞれが自分の心の中で描きたい。
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