何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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夏への扉
※ネタバレあり。

『夏への扉』
ロバート・A・ハインライン/小尾芙佐 訳 早川書房

私だけではないだろうけど、図書館で本を選ぶ時は、すでに評価の定まった名作を選ぶことが多い。この作品もそうだ。SF雑誌の読者投票で一位に選ばれたとか、SFオールタイムベストワンに選ばれたとか、とにかくSFファンから熱烈な支持を受けている。読む前から、いやがおうにも期待が高まろうというものだ。
だが一抹の不安もあった。私が初めて読んだハインラインは、これも評価が高い『月は無慈悲な夜の女王』だったが、あまり面白いと感じなかったからだ。
もしかして私には、ハインラインの作品が合わないのかもしれない。でも一作だけで「合わない」と決めつけるのはあまりに早計というもの。なのでハインラインの作品中、(日本では)もっとも人気の高いこの作品を読んでみた。

で、読み終わった感想は。……うーん、やっぱり私には合わないのかも。とはいえ『月は無慈悲な夜の女王』よりはずっと楽しめたし、途中まではワクワクしながら読んだ。だが後半、タイムトラベルのマシンが登場したとたん一気に萎えた。あまりにも唐突で、あまりにも都合良すぎ。そのご都合主義全開な展開に萎えると同時に、その後の展開もおおかた読めてしまった。
主人公のダンに共感できないのも、イマイチだと感じた一因だろう。共感も感情移入もできないから、この物語の主軸である、彼の逆転ストーリーを心から応援できない。才能あふれる技術者なのは分かるが、だからといって周りの技術屋以外の人たちを見下し過ぎ。自己中心的というか。猫大好きなのはいいけれど、その猫をどんなところにも(動物お断りの飲食店にも)こっそり連れて行って、注意してくるお店の人に食ってかかるあたりもげんなりした。なんて自己中な飼い主だろう。これは別に私が「猫好きじゃないから」とかじゃなく、主人公が私と同じくうさぎを飼っていても、読んでてげんなりしただろう。ペットを偏愛するあまり周りの迷惑を考えない人間は、同じ動物好きとして好きになれない。

ヒロインのリッキーにもあまり共感できなかった。もっともこれは、彼女の登場シーンが少なすぎることが大きな理由だが。だがその短い登場シーンの中ですら、人間味があまり感じられなかった。特に継父のマイルズへの態度が冷淡なのが気になった。母がなくなった後も、血がつながっていない自分を育ててくれた人なのに、「あの人は、あたしのほんとうのパパじゃないもん」とか冷たすぎる。このシーンも含めて、本を読み終えて真っ先に出てきた感想は「マイルズが気の毒」だった。根は悪い人じゃなさそうなのに。ダンも、マイルズがベルに騙されて殺されたことを知ってるなら、1970年に戻った時にマイルズを助けてあげればいいのに。ピートだけ助けるんじゃなくって。だがマイルズが死んだと知った時も、元親友の死に対して何のショックも感じてなさそうだったし、もうマイルズのことなどどうでもよくなってたってことか。このマイルズの件があるから、私はこのお話が、巷で言われているほど「完全なハッピーエンド」とは思えなかった。
その他の登場人物たちも、なんだかおしなべて人間味に欠けるというか、薄っぺらく感じた。人物ではなく、プロットを動かすための記号に過ぎないという感じ。一番生き生きしていたのは人間ではなく猫のピートだ、間違いなく(笑)。

だがそのプロットも、タイムトラベルものにしてはあまり練られてなくて、穴だらけという印象。リッキーと同じく、私も「もうひとりのダンはどうなったの?」と疑問に思った。それについてはダン自身もあまりよく分かってなくて、ごまかしているのを読んでがっかり。タイムパラドックスの矛盾を説明することから、作者が「逃げた」という印象を受けた。「なるほど!そうだったのかー」という知的興奮が味わえるのがSFの醍醐味なのに、読み終わってからもモヤモヤ感が残るのはSFとしてはどうなのか。他にも、後半になると話をまとめるためにご都合主義で無理矢理な展開が多くて、せっかくのクライマックスも話にのめりこめなかった。
もしかすると、「SFオールタイムベストワン」というのを知らずに読んでいたら、もっと楽しめたのかもしれない。読む前にハードルを上げすぎたのかもしれない。
だから今後もきっとまたハインラインを読むだろう。『夏への扉』はあまりに評価が高かったから自動的にハードルを上げすぎたけれど、この作品ほど評価が高くない他の作品なら、もっと素直に読めるだろうから
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私も同感です。
映画「バックトゥザフューチャー2」が大好きなんですが、どこかで本書がネタ元だと聞いたことがあり読んでみたのですが。。もちろんハインライン自身もパラドックスには気づいていて、モルモットを例にして主人公に語らせてもいるのですが、なんだかアリバイじみていますよね。あまりに名作として好意的に語りつがれすぎているという印象です。
bbdqn | 2015/09/28 00:45
bbdqnさま


コメントありがとうございます!
「バックトゥザフューチャー2」の元ネタとは知りませんでした。ぶっちゃけ、映画の方が出来がよくないですか? ^^;
読んだのが約3年前なので、モルモットを例にして主人公に語らせているシーンがあったかどうか思い出せないのですが、なんにしろ、タイムパラドックスがすっきり解決できてなくて、もやもやした読後感が残っています。もしかしたらSFとして読むのではなく、恋愛ものとして読むべき作品なのかもしれません。でも「SFオールタイムベストワン」だし…という思い込みがどうしても抜けなくて。やっぱり読む前にハードル上げすぎるのはよくないですねえ。
めえこ | 2015/09/28 20:06
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