何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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Last winner〈第二部〜その5〉「最後のユニフォーム」
出待ちしている人の中には、バラックユニを着ている人が少なくなかった。が、レヴァークーゼンユニを着ているのは私だけで、他はほとんどが代表ユニだったと思う。
中でも目立っていたのが、2010年W杯の代表ユニだ。
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スタジアムでも、この2010年W杯仕様のバラックユニを着ている人を多く見かけた。W杯本番では着ることがかなわなかった無念のユニであり、結果的にバラック最後の代表ユニとなったこのユニを着た人が多かったことは、ちょっと意外だった。どちらかというと切ない思い出の方が色濃いユニなのに。でも、だからこそ、ファンの思い入れが強いのかもしれない。これを着てW杯を応援しようと思っていたのにそれがかなわず、結局二度と着る機会がなかったユニだからこそ、この機会にもう一度着たい。そんな思いが込められているのかも。
……などと推測してみたけれど、実はただ単に、今、新品で買えるバラックの代表ユニはこのバージョンだけという、物理的な理由かもしれない。



時間の経過とともに、人だかりは次第に大きくなっていった。道を通り過ぎる人たちは、初めは「この人だかりは何ごと?」とびっくりした顔で立ち止まるが、すぐ次の瞬間には「ああ、引退試合ね」と納得し、笑顔を見せて歩き去る。なんというか、街の人たちみんなが、ライプツィヒのお祭りを微笑ましく見守っている感じ。

そんななか、ちょっと気の毒だったのは、グランドホテルに宿泊しようとする一般客だ。なんせ格式高いホテルだから、タクシーでやってくるお客ばかりなんだけど、この人だかりのため、玄関前までたどりつけない。タクシーの運転手も乗客も「おいおい、これは何ごとだよ」という顔で、窓から顔を出して人だかりを見やっている。そこへタキシードに山高帽をかぶったホテルのドアマンが駆けつけて、事情を説明し、その場で車から降りてもらって、人混みをかきわけてスーツケースをホテルまで運んでいた。

高級ホテルのドアマンってこういうこともあるから大変だなあと思いながら見ていると、後ろの方から「すごい人だかりねえ」と日本語が聞こえてきた。見ると、上品な雰囲気の初老のご夫婦が、人ごみを前に戸惑っていた。スーツケースを持っていることから、このホテルに入ろうとしているらしい。
私が「すごいですよね」と話しかけると、奥様の方が「本当に。何かあるんですか?」と聞き返してきた。
「今日はバラックの……ミヒャエル・バラックの引退試合があるんです。出場選手たちはこのホテルに泊まってて、それでみんな選手を待ってるんですよ」
私は意気揚々と答えたが、奥様はやや戸惑った顔で、
「それは……サッカー選手なんですか?」
これがごく一般的な日本人の反応である。まだこの奥様は「ドイツだからサッカー選手なんだろう」と気づくのだから察しがいい方だ。普通は、街で出会った日本人にバラックうんぬんと言ってもまず分からないと普段は理解してるはずなのに、この時ばかりは平気でそう説明した。つまり自分でも気づかないうちに、周囲のお祭りムードに飲まれてテンションが高くなっていて、「誰もがバラックを知ってるはず」と勘違いしたのだろう。
「今日はここに泊まるんですか?」
「そうなんですよ」
「それはラッキーですね!」と私は反射的に答えたが、ちょっと冷静になると、一般人にとっては別にラッキーでもなんでもなく、むしろホテル前がこんなことになってていい迷惑である。でもそんなことにも気づかないほど、このとき私は浮かれていた。
その後、このご夫婦はドアマンに誘導されてホテル内へと入って行った。

〈6〉に続く
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