何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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神様がくれた時間「第二章・ファン」(その2)
当時、私の住んでいたマンションはペットOKではなかった。が、そういうマンションでうさぎを飼っている人はたくさんいる。鳴かないし、糞尿の掃除をきちんとしていれば匂いも漏れないので、大家や管理会社にバレずに飼うことが容易だからだ。
私も周囲に迷惑をかけてなければOKやんという考えだったが、私の両親は違った。ペットOKではないマンションでこっそりうさぎを飼うなんて絶対にダメだと言い、うさぎを実家に預けて、妹に世話を任せるようにと私に言いつけた。

ファンと暮らし始めてから、まだ一ヶ月も経っていなかった。まだ子うさぎで、今が一番かわいい時期である。私は反論したが、ペットOKではないマンションで飼っていることへの後ろめたさもあり、結局は親に従うしかなかった。妹がファンの世話をするというのも、しぶしぶ親の言いつけに従った理由の一つだった。
妹も動物好きで、セキセイインコを不慮の事故で亡くすまで、ずっと可愛がって世話をしていた。そして何より、妹は私よりずっとしっかり者だった。妹なら、きちんとファンの世話をしてくれるだろう。

そういうわけで、それから数日後に両親、弟、妹が車でやってきて、ケージごとファンを実家に連れ帰った。ファンがいなくなった部屋は寂しく、生気がなくなったようだった。ファンと別れた翌日、私は会いたくてたまらなくなり、仕事が終わるとそのまま電車に乗って、一時間ほど離れた郊外にある実家に向かった。
母親は、うさぎ会いたさにやってきた私に呆れていた。だが私自身も、自分に呆れていた。が、どうしてもその日はファンに会いたかったのだ。私が親への言い訳もそこそこに二階の妹の部屋に行くと、ちょうど妹がファンの世話をしているところだった。ケージから、すぐ前に座る妹の膝に飛び乗るファンを見て、私はほっとしたのを覚えている。そして気づいた。衝動的に実家に行った理由は、ファンに会いたかったのもあるが、実家でかわいがってもらっている姿を見て、安心したかったのだと。それが叶えられたので、それ以降、私は衝動的に実家に行くことはなくなり、その後しばらくファンと会うことはなかった。

ファンと離れて暮らしている間も、ときどき妹から情報をもらっていた。ファンは、妹から「ムームー」という名前をもらっていた。けっこう気が強いらしく、ベッドの上がお気に入りの場所で、移動させようとすると唸り声を発すること。また、普段は絶対に自分から妹に飛びついたりしないのに、病院に連れて行ったときだけ、「もう帰ろう」とばかりに診察台から妹に飛びついたこと。部屋に離して遊ばせていると、リラックスして、ごろんと仰向けになって寝ることなども聞いた。

その年の年末、数ヶ月ぶりに実家に帰った。子うさぎだったファンはすっかり大人になっており、まるで別うさぎのようだった。妹は部屋の床に防水のペットシーツを敷き、その上でファンを遊ばせていた。私が久しぶりにファンを膝の上に抱いたとき、ファンは嫌がらずにじっとしていた。私のことを覚えているのかなと嬉しくなったのも束の間、気づくと膝の上におしっこをされていた。私の膝を、トイレと勘違いしたらしい。

そんな生活が二年ほど続いた後、妹が結婚のため実家を出ることになった。だがうさぎは新居(マンション)には連れて行かず、実家に置いて行くという。そのマンションがペットOKではないという理由もあったのかもしれない。
妹が出ていった後、いったい誰がうさぎの世話をするのか。実家には両親がいて、エサや水を与えるという最低限の世話はしてくれるだろうが、「かわいがる」ことまでは期待できない。特に母親は動物が苦手だし、そういう人に世話を押し付けるのは申し訳ないとも思った。
ーーとなると、残る選択肢は一つ。私が実家に帰るしかない。

当時、私はすでに会社勤めをやめてフリーランスとして働いており、通勤のため大阪市内に住む必要がなくなっていた。在宅の仕事も増えていたので、実家に帰ってもそれほど仕事面での支障はなかった。
だからといってこのとき、「またファンと暮らせる!」と、喜び勇んで実家に戻ったわけではなかった。正直、複雑な心境だった。ファンと離れて二年も経つと、ファンのいない暮らしにもすっかり慣れ、気ままな一人暮らしを満喫していた。それなのに再びファンと暮らし始めると、またファンに情が移って、いつか必ず訪れる「別れ」を経験しなくてはならなくなる。私はすでに一度、子うさぎだったファンと引き離されるという「別れ」を経験している。なのにまた、今度はもっと辛い別れを経験しなくてはならないのは、ちょっと理不尽じゃないかと思った。
もっともかわいい子うさぎ時代をともに暮らせなかったのに、その最後は看取るという辛い役目をおわなければならないなんて……とも思ったが、元々の飼い主は私だし、ペットショップで購入したのも私である。あの日、家に連れ帰るとき、箱に入ったファンの重みを手に感じながら思った。「このいのちを最後まで全うさせてあげることが、このいのちをお金で買った自分の使命」なのだと。そのことを思い出し、実家に帰って、再びファンと暮らすことに決めたのだった。

続く
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