何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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白夜行(と幻夜)
 『白夜行』『幻夜』
東野圭吾 集英社文庫

『白夜行』と、その続編とも言われている『幻夜』を続けて読んだ。先に読んだ『白夜行』は、名作と言われているだけあって確かに面白い。だがヒロインの雪穂が、あれだけの悪行を繰り返してまでも求めているものが「富と名声」に読めてしまうのがあまりに俗っぽくて、あまり魅力を感じられない。だから共感も感情移入もできなかった。いや、本当はもっと別のものを求めているのかもしれないけど、少なくとも本を読む限りでは、彼女は「富と名声」に執着しているように見える。さらに『幻夜』の美冬も雪穂だと考えると、「富と名声」に加えて「衰えない若さと美貌」も追い求めていることになり、ますます俗っぽく。
こういう、いわゆる「犯罪者」を主人公にした小説って、その主人公にどれだけ感情移入できるかがカギだと思ってるので、これだと読み終わった時にどうしても読後感の悪さが残る。
まあそれでも、『幻夜』よりは『白夜行』の方が、主人公たちの「切なさ」みたいなものが感じられて心に残った。また脇役も含めた登場人物の多彩さやその造形も『白夜行』の方が上のように思う。初登場の時にはちょい役だと思った登場人物が、物語が進むにつれて意外な存在感を発揮したりする。特に私が意外だったのが篠塚一成だ。
だが作中、探偵の今枝が「雪穂の最愛の人は篠塚一成」と確信を持って言ったことについては疑問が残る。果たして本当にそうなのかどうか、読者の中でも意見が割れているようだけど、私は「否」と思う。雪穂は一成に特別な感情を抱いているのは事実だろうが、それは今枝が言うような愛情ではなく「警戒」ではないかと思うのだ。
第一印象で彼女の本質を見抜き、他の男たちのようには彼女に翻弄されなかった一成。その、ベテラン刑事をも驚かせる鋭い眼力を、雪穂はずっと警戒し続けているのではないだろうか。
今枝が「雪穂の最愛の人は一成」とした理由の一つの、「何年も前にちらっと見ただけの、一成の腕時計を覚えていた」というのも、警戒心からだ。また今枝が、雪穂のブティックに偵察に行く場面。紹介者の名前を篠塚にしたら、店の上得意客で、彼女にプロポーズしている康晴ではなく、一成の名前を上げたのも、警戒心からではないかと思う。雪穂は今枝をひと目見て、彼が単なる客ではない、恐らく刑事か探偵の類の人間ではないかと見抜いたのだと思う。そんな人間を店によこす人間として、真っ先に一成の名前が思い浮かんだのではないだろうか。
そんな、警戒すべき人間だからこそ、養母の葬式の時、雪穂は一成を懐柔しようとして、彼に弱みを見せたり、誘惑したりしたというのが、私の推測だ。

とはいえ一成が、雪穂の養母の葬式のため強引に大阪に行かされるくだりについては、「あ、彼も大阪で消されるんだな」と予想していた。だからそうならなかったのは意外だった。一成に依頼されて雪穂の調査をしていた今枝が「消された」直後だから余計に。
雪穂にとって明らかに邪魔な存在なはずの一成が、直接の危害を受けず、受けた罰が「左遷」だけというのも生ぬるく感じる。その「左遷」にしたって、大阪で雪穂の誘惑になびかなかった後のことだから、もしかすると雪穂が「フラれた」腹いせに左遷という罰を与えたのかも、という思いもある。だって他の邪魔者たちが受けた報いに比べて、明らかに中途半端な報いだし。そう考えるとやっぱり雪穂は一成が好きだったのかなあとも思える。雪穂がようやく康晴からのプロポーズに応じて結婚したのも、大阪で一成にフラれた後のことだし。それまでは一成に未練があって康晴からのプロポーズに応じなかったけれど、大阪ではっきり脈がないと分かって、それでようやく康晴と結婚することにしたのかも、と勘ぐりたくなる。
……あれ、ということは、やっぱり雪穂は一成が好き? 書いてるうちに自分でもよく分からなくなってきた。
でもでも、やっぱり雪穂の一成への感情としては、先に書いた「警戒」の方が強く感じるんだよなー。警戒するということは、それだけ「鋭い眼力の持ち主」として一目置いて、特別視しているということでもある。それを愛だと読み違えたのが今枝で、読者にもそんな風に思わせて雪穂の人物造形に深みを与えようとする作者のテクニック…なのかもしれない。
そして『幻夜』が『白夜行』ほど物語に深みが感じられないのも、『幻夜』には一成のようなキャラクターが登場しなかったことも、一因かもしれない。ヒロインが本当に愛しているのは彼なのでは、とふと思わせられるような男性が。
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