何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
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「この街の空気感を守りたい」。ウラなんばと川端屋商店
先日、飲食店経営雑誌の仕事で「日本橋ビアホール」を取材した。その取材記事は現在発売中の雑誌に掲載されているが、ページ数の関係で元の原稿よりだいぶ短くなっている。誌面の掲載スペースが限られているので仕方ないのだが、川端社長がなぜ、この店を出店したのかということなどがバッサリ削られている。そこで掲載スペースを自由に使えるこのブログに、元の原稿を全文掲載することにした。

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 「この街の空気感を守りたい」
日本橋ビアホールがウラなんばの一等地に出店した理由とは。


「牛高豚低(ぎゅうこうとんてい)」という言葉もあるほど、大阪人は豚よりも牛が好き。だからこそ豚に可能性を感じて、豚にこだわった店を出している」。そう話すのは、大阪市内で7店舗を展開する川端屋商店の社長、川端友二氏だ。その言葉通り、2003年オープンの1号店「焼とんyaたゆたゆ 天下茶屋 本店」を皮切りに、焼とん店、豚の骨付きリブが名物のワインバル、骨付き豚カルビ店と、業態こそ変われど一貫して「豚料理」の店を出し続けている。
「肉は豚オンリー」の会社だからできる、部位の有効活用によるコスト削減の利点もある。2011年オープンの4号店「ワインバル・ヤ リブリン ウラなんば本店(以下リブリン)」は、既存店では使わずに捨ててしまう部位「リブ」を活用しようと、そのリブをワインと相性のいいオーブン焼にすることで「名物」としてヒットさせた。と同時に、それまで焼とん店だけの展開だった同社初のワインバル業態として、会社を大きく成長させるきっかけにもなった。

そんな同社の最新店が、2014年にオープンした「日本橋ビアホール」だ。看板料理は豚のスペアリブをカリッと揚げた「骨付きポークフライ」(1本380円)で、夜だけで一日約40本が出る。そのポークフライにかぶりつきながら「ビールをぐびぐび流し込む」が同店のコンセプトで、一日約75杯のビールが出る。6種類揃う生ビールは特注の有田焼のドラフトタワーから注ぐなど、ビアホールらしい雰囲気づくりも工夫しているが、外観や内装、インテリアは決して本場のドイツ風ではなく、「西洋かぶれした戦前の日本人が、背伸びしてつくったビアホールをイメージ」(川端社長)。そこであえて古いすりガラスの戸やタイルなどを外観に設置し、店内には裸電球や昔の電車のつり革をぶら下げている。そうしたレトロな雰囲気もお客に受け、10坪の小バコながら月商450万円を売上げる繁盛店となっている。

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店ではなく
「人に会いに行く」のがウラなんば


「日本橋ビアホール」は、今「ウラなんば」として注目されている、南海なんば駅の北東エリアに立地。ウラなんばとは一般的に「なんばグランド花月の裏手、千日前商店街のアーケードがとぎれた辺りから、堺筋までの一帯を指す」(川端社長)。実はこのエリアへの出店は、川端屋商店としては4店目。だが4店目にして初めて「ウラなんばを意識した店を出した」と川端社長。「それまでの3店は、特にウラなんばは意識せず、どの街に出しても繁盛するような『おいしいものを食べて、楽しい時間を過ごしてもらう』店づくりをしてきた。だがこの店は黒門市場の向いの角地で、ウラなんばの東玄関とでもいうべき一等地。そこが空き家になったとき、もしここにチェーン店が入ったらウラなんばの空気感が損なわれる。そう感じてここに出店を決めた」。
ウラなんばに集中出店することでこの街を盛り上げてきた「立役者」の川端社長らしい、街への思い入れが感じられるエピソードだ。だがその社長も、難波のホテルのフレンチ部門で働いていた20代の頃は、「このあたりは立ち寄りたくない場所だった」と振り返る。当時は風俗店がメーンの街で、そういった店の客引きも多かったからだ。「でも自分で店を経営するようになってから行くと、そのいかがわしさが逆に面白く感じた。大人になって、いかがわしさを面白がる余裕ができたんだと思う」(川端社長)。
元々「繁華街から外れた方が面白い」と考えていた川端社長は、2007年、同社の3号店「大阪焼トンセンター」をウラなんばへ初出店した。飲食店経営者には人気のないエリアだったので家賃も安く、坪家賃は1万7千円。それでいて、ターミナルのなんば駅から徒歩5分と、きっかけさえあれば人の流れを呼び込める立地だった。
だが「周りには僕と同じ30代が経営する飲食店がほとんどなく、また僕自身、行きたいと思える店が周囲になかった」(川端社長)。そんな時に勇気づけてくれたのが、このエリアの象徴である味園ビルだ。一般的には大宴会場のあるビルとして有名だが、実は二階に個人経営の個性的なバーが複数テナントで入っており、若者が集まるディープスポットになっていた。
「たまに同年代のお洒落な女性がこの街を歩いていて、見るとたいてい味園ビルの二階に行く。それを見て、僕もこの街に同年代のお客を引っ張ってこれると確信した」(川端社長)。
この街の可能性を信じた川端社長が取った手段が、周囲に同年代が集う飲食店を増やすことだ。「周囲に店が増えた方が、相乗効果で自分の店も繁盛する。あの街に行ったら食べたい店が必ず見つかる、という風にしたい。お客が『あの店に行こう』じゃなく『あの街に行こう』となるようにしたかった」(川端社長)。
だがなかなか周囲に同年代を対象にした飲食店ができないため、「自分で店を増やすこしにした」(川端社長)。ウラなんば1店目を出してから2年後の2009年、2店目の「焼とんyaたゆたゆ 難波千日前」をオープン。すると一年後、星本幸一郎氏が鉄板居酒屋「鉄板野郎」をオープンして人気を集め、川端社長が望んでいた「相乗効果」で、次第に街に若者がやってくるようになった。また当時の大阪府知事、橋下徹氏がこの地域の風俗店を次々に排除したことも、飲食店には追い風になった。風俗の客引きが減ってお客が歩きやすくなり、「街の空気が変わりつつある」と感じた川端社長は、2011年、ウラなんば3店目となるワインバル「リブリン」をオープン。「鉄板野郎」の星本店主と二人で「ウラなんば」というネーミングを考え、口コミで周囲に広めていったのもこの頃だ。そうして次第に飲食店が増えていき、それに目を付けた地元の人気情報誌が、2012年に「ウラなんば特集」として大々的に紹介。街の認知度が飛躍的に高まった。
昨年12月には朝日新聞にも「飲食店急増 ウラなんば」という題で取り上げられるなど、その認知度は全国に広がりつつあり、それに応じて家賃も上昇。昨年オープンの「日本橋ビアホール」は坪家賃3万円と、7年前の「大阪焼トンセンター」の約2倍に。それだけ人気が上昇しているエリアといえる。

こうして今や全国的にも注目されるスポットとなったウラなんばだが、その商圏としての特徴は独特だ。「あの店に行く、じゃなくて、『あの人に会いに行く』お客が多い」と川端社長。例えば日本橋ビアホールなら、「日本橋ビアホール行こか、じゃなくて、ナオキ(店長の下の名前)んとこ行こか、と言ってウチに来る」。その理由としてまず、小バコの店が多いこと。そのため店員とお客の距離が近く、すぐ仲良くなって下の名前で呼び合うようになるという。
小バコなのでお客同士の距離も近い。一人で飲みに来た人でも、すぐ隣の人と仲良くなり、「味園ビル知ってる? 面白いから行こか」などと誘って、次の店に行く。で、帰る頃には5人連れになっている光景をよく見るという。
「とにかくこの街が好きで、面白い店を『教えたがる』お客が多い」と川端社長。お客が次々に面白い店を探し、それを他に伝えていく。そうしてお客と店、お客とお客がつながっていった結果、「一人でふらっと入った店でも、たいてい知り合いが飲んでいる」のがウラなんばの特徴になっており、街に人を呼び込む求心力にもなっている。川端社長が最初に目指した「『あの店に行こう』じゃなく『あの街に行こう』となるようにしたかった」が今、まさに実現しているというわけだ。だが最初に街を開拓したのは川端社長や星本店主かもしれないが、今ではお客自身がこの街を盛り上げていく原動力になっている。
それを象徴しているのが、3年前から毎年開催されているウラなんば文化祭だ。イベントパスを購入して約60店の参加店舗を飲み歩く「街バル」だが、他の街の街バルと違うのは、企画・主催しているのが商工会議所や商店街ではなく、一般のお客だということだ。彼らが無償で主催している理由はただ一つ、「この街が面白いから」。川端社長自身も、ウラなんばで店を運営する魅力を「毎日が街バルのようで楽しいから」と話す。

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川端社長とともに、この一帯を「ウラなんば」と名付けた星本店主の店「鉄板野郎」(ビルの2階)


そんなウラなんばの一等地に、川端社長が「この街の空気感を守りたい」と出店した「日本橋ビアホール」は、必然的にウラなんばの空気に合わせた店となっている。自店の利益だけでなく、「ウラなんばの魅力をもっと紹介できるような、街のホットステーションになってほしい」という川端社長の思いもこめられているため、店のつくりも工夫されている。
その一つが、ユニークな席レイアウトだ。前にこのビルに入居していたカフェはスタバを真似たようなお洒落な店で、キッチンはクローズドだった。また大通り側の壁はガラス張りで通行人から丸見えだったが、お客が通りに背を向けて座っているため、閉鎖的な雰囲気だったという。その物件を居抜きで借りた川端社長は、まず中央のキッチンを覆っていた壁を取り払い、オープンキッチンに。そのキッチンをカウンターが囲み、さらにその周囲をテーブル席が取り囲む席レイアウトにした。テーブルが窓側にあるため、通行人からテーブルと、そこに座るお客の顔がよく見える。また窓側のテーブルの真上には、目を引くアンティークな照明を吊るした。これには「外から見たとき、店がショールームのようになるように」(川端社長)という狙いがある。通りに背を向けるのではなく、通りに顔を向けるオープンな席レイアウトが、「店とお客の距離が近い」ウラなんばの空気に合うと判断したからだ。

外パリッ、中ジューシーな
ポークフライが看板

料理はどれもビールに合うよう濃いめの味付けだが、「お酒のアテ」ではなく、しっかり作り込んだ料理が多い。豚にこだわってきた同社らしく、この店の料理も肉は全て豚で、料理ジャンルは「豚肉料理」。看板に打ち出している「骨付きポークフライ」は、広東料理の鶏の唐揚げをベースに、鶏を豚に変えて作った同店のオリジナルだ。スペアリブに岩塩と、隠し味の蝦香醤(エビジャン)をまぶし、外はパリっと、中は柔らかくなるよう調整して揚げている。ひと口かじるとジューシーな肉汁があふれる食感と、隠し味の蝦香醤が効いた「やみつきになる味」(川端社長)が人気だ。プレーンの岩塩の他にもグリーンマスタード、ケイジャンスパイスなど6種類のフレーバーを用意し、飽きさせないよう工夫。「ビールと一緒に食べてもらいたいので、注文から早いと2分、遅くても8分で提供できるようにしている。
ランチでは「ポーク100%ハンバーグ」(ご飯、みそ汁、コーヒー付きで780円)を名物に打ち出し、チーズやおろしポン酢など4種類を用意。一番人気はプレーンの「醤油オニオンソース味」で、一日30食が出る。豚肉100%にこだわったハンバーグは豚肉本来の美味しさを味わえるよう、胡椒以外の調味料は使わない。お客からは「やわらかい」「牛に比べてあっさり食べられる」などの声が多く、好評だ。

接客は、ウラなんばの他店と同様、店員とお客の距離が近く、互いに下の名前で呼び合うなどフレンドリー。だがお客の居心地を良くするため、常に気を配っている。「接客で一つだけ大切にしているのは、音を聞くこと」だと杉本直樹店長は言う。店内は常にラジオの音やお客の声で賑やかだが、そんな中でもドアが開く音、箸が落ちた音、グラスをテーブルに置く音などを聞き逃さないようにしているという。例えばグラスを置く音が多く聞こえたら、「そろそろグラスが空くな」と察して、次の注文を聞きに行く。「お客に声をかけられる前に、常に先手先手で行動いるようしている」(杉本店長)。また看板のポークフライは肉にかぶりつく食べ方なので、口周りや手が汚れる。そこであらかじめおしぼりをテーブルに用意しているが、その後もポークフライを頼む数に合わせて、お客に言われる前にさりげなく何度もおしぼりを交換している。一見、友達のようなフランクな関係に見える店員とお客だが、そうした細やかな気遣いが、同店をウラなんばの中でも人気店にならしめているといえる。

■DATA
日本橋ビアホール
大阪市中央区日本橋1-20-8
電話/06-6649-0254
経営/川端屋商店


看板料理の骨付きポークフライは、異なるフレーバーが7種類。スナック菓子のカールを砕いてまぶした「カールスモーキー」が一番人気だ。「ビールとスナック菓子は合う」ことから考案したという。

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ランチメニューも豚にこだわった「ポーク100%ハンバーグ」(ご飯、みそ汁、コーヒー付きで780円)。ご飯はおかわり自由で、ご飯のかわりに小ビールも選べる。週末は3割くらいがビールを頼むという

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「ウラなんば」の角地に立地する同店。10坪の小バコなのに「ホール」としたのは、「人が集うこの街のイメージに合うから」(川端社長)。

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取材時は、この街を舞台にした映画「味園ユニバース」の公開前だったため、映画のポスターが店前にさりげなく置かれていた。


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レトロな外観や内装は「わざとらしくならないよう気をつけている」と川端社長。その秘訣はレトロな素材をただ飾るのではなく、「道具」として使うこと。古い茶箱もボトル棚として使用

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「ドイツ風のビアホールにしたくない」という川端社長は、ドラフトタワーも有田焼のものを特注。コンセプトは「西洋かぶれの日本人の店」。
豚料理専門の店らしく、ちょこんと置かれた
豚がかわいい。



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