何年たっても、まだ狂ってる。
Still Crazy After All These Years (Paul Simon)
<< December 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 白菜どこ〜? in故宮 | main | お一人様にはツラい鼎泰豊。 >>
『綉春刀』続編始動。一作目のファンを失望させた制作発表とは。
低予算で作られた無名監督の映画が好評を得て、「それじゃ続編を」となり、投資する会社が増えて潤滑な資金で続編が企画されたとき。いざ制作が発表されると、主役の俳優以外はがらっと前作からキャストが変わったときのもやもや感は、やっとの思いでW杯初出場を勝ち取った弱小国のチームが、本大会出場時にはキャプテン以外がらっと選手が入れ替わっていた時のもやもや感に似ている。
何が言いたいかというと、映画『绣春刀』のことだ。
※日本公開時の題名は『ブレイド・マスター』だが、私はこの邦題が好きじゃないので原題『绣春刀』のまま話を進める。そもそもこの映画が日本で不人気なのは、『ブレイド・マスター』という汎用的すぎるカタカナ名のせいもあると私は見ている。『ブレイド・マスター』というタイトルだけ聞いて、「どんな映画だろう、見てみたい」とはまず思わない。

この映画は一作目が2014年に中国で公開され、2015年には日本でもミニシアターでひっそりと公開された。映画の感想についてはこちらの記事を読んでいただくとして、ここでは先日制作発表会が行われた、続編について書きとめておきたい。

この映画の原作者で、脚本も書いた路陽(ルー・ヤン)監督の話によると、『绣春刀』続編の企画は、一作目が公開された二ヶ月後、2014年10月に持ち上がったらしい。つまり一作目の制作時には「あわよくば続編を」という考えはなかったわけだ。映画は路陽監督の監督三作目で、彼は当時、ほぼ無名の新鋭監督だった。低予算なため宣伝もほとんどできない状態だったが、口コミでじわじわと人気が広まり、結果的にはなんとか制作費をペイできる小ヒットになったという。
映画自体の評価も高かったため、続編が企画された。続編企画が進行中と公表された2014年11月には、路陽監督はインタビューで「続編は一作目の前日譚になる」と発言。これを受けて続編のタイトルは、以後、便宜的に『绣春刀前传』と称されるようになった。
続編では資金が一作目の3倍以上にアップし、「キャストも全面的にグレードアップする」と監督。この時点ですでに、「一作目の味わいが失われるのでは」と危惧していたファンは少なからずいた。私もその一人で、一作目のあの、低予算の中でなんとかやりくりしているB級っぽさがこの映画の魅力の一つだと思っていたからだ。
それにキャストも全面的にグレードアップって? 一作目の出演俳優ががらっと入れ替わる可能性もあるってこと? 
いやいや一作目の人気は魅力的な登場キャラクターたちによるところも大きかったし、さすがにそれはないだろう。一作目の前日譚ということは、主役の三兄弟の出会いや、義兄弟の契りを結ぶ過程などを、どうしたってファンは期待するだろうし。
それに私は知らなかったが、監督は「前传は丁修と靳一川の師兄弟と、三兄弟の過去の話になる」と言ったらしい。特に師兄弟の話が核心になるとか。この映画の脚本も書いている監督がそう言うのだから、ファンは期待しない訳にはいかない。とりわけ一作目でもっとも中国の観客、特に女性たちに人気が出たのが、丁修と靳一川の師兄弟なのだから。この二人は「相思相愛」ならぬ「相愛相殺」の関係だと、ファンの間では言われている。
ちなみに中国での绣春刀人気には、腐女子たちもおおいに貢献していると私は思う。その腐女子人気を支えていたのが丁修、靳一川の師兄弟だ。

そんな訳で監督の「キャストを全面的にグレードアップ」発言に一末の不安を感じつつも、ファンは『前传』の撮影開始を心待ちにしていた。その状態が約一年半続いた。

で、先日3月16日に正式に、『绣春刀前传』の制作発表会が行われた。正式タイトルは『绣春刀 修羅戦場』。主要キャストも発表されたが、なんと前作でも主役を演じた張震(チャン・チェン)以外はがらっと総入れ替えに。当然ストーリーもガラッと変わって、前作のような三兄弟が軸の話ではなく、全く新しいキャラクターが新しいストーリーを展開するとのこと。

ちょっと待て。それって果たして『前传』か?

だが監督はきっぱり「タイムラインからいって、一作目の前传と言えます」と言う。確かに時代設定は天啓七年で、まだ魏忠賢の専横時代。一作目の数年前の設定だ。
だが時代設定が一作目の前というだけで、『前传』と名乗るのはちょっと苦しい。『前传』というからには、ファンは当然三兄弟と、師兄弟の過去話を期待していたのだから。
それを大胆に裏切ったこの発表。一作目のファンからは当然非難の声も上がっているし、私も残念だが、一方で納得もしている。だって今回もまた三兄弟を主役にしたところで、彼らはこの作品では死なないと分かっているし。どんな危険な状況になろうとハラハラドキドキしないし、危険を乗り換えた時の喜びもない。それって三兄弟のファンは「キャラクター映画」として楽しめても、それ以外のファンにはつまんない映画になるのではと思うからだ。
そのことについては、この続編で初めて「監製(プロダクションマネージャーのことか?)」としてスタッフに加わった寧浩(ニン・ハオ)も同じ考えらしい。彼は映画の全面的グレードアップを計る路陽監督に依頼されて監製となったが、路陽は最初、三兄弟が主役の脚本を書いて寧浩に見せたところ、書き直しを命じられた。理由は「彼らはすでにその運命が確定しているから、観客の予想外の喜びや悲しみには限りがある」から。私もそれに同意する。
その後、路陽は書き直した脚本を寧浩に見せてはダメだしをくらい、五稿目でようやく寧浩からOKをもらったとか。映画は脚本が命だし、なんだか期待できそうではないか。一作目のスタッフだけで進めるのではなく、外部から監督としても監製としても実績のある寧浩を招いたことは、良い結果につながるのではないだろうか。

それに前作の主役だった沈煉はまだ引き続き主役で、演じる俳優も張震のままだ。軸となる俳優がそのままだから、よく「失敗した続編映画」として名の挙がる『スピード2』や『マスク2』のようなことにはならないのでは。張震は以前、「異なる役を演じることが好きだ。再び同じ役を演じるのは好きじゃない」と言ったそうで、確かにこれまで同じ役を再び演じることはなかった。それについて路陽は、「今回の役は(沈煉という役は同じでも)新鮮な感じがあるから、張震は引き受けたのでは」と語っている。
また、張震以外はがらっとキャストが変わったことについては、「寧浩と討論した結果、新しいストーリーと役柄を採用した。沈煉を核心に、彼に新しい人物とからませ、新しい冒険をさせる」とのこと。その一方で、「『绣春刀2 修羅戦場』で新しく登場する役柄の何人かは、一作目の『绣春刀』の役柄と複雑で入り組んだ関係にある」とも漏らしている。
さらに、発表された主要キャストには名前がなかったが、監督いわく、実は張震以外にも、一作目に続いて出演する俳優はいるらしい。それも一作目と同じ役で。だが彼らは主演ではなく、いわば特別出演のような形で、短時間の出演になるのではないだろうか。

そうした期待はあるものの、とりあえずはっきりしたことは、続編は一作目とは違い、三兄弟が主役の話ではないということ。また一作目で鮮烈な印象を放った丁修が登場するかどうかも未定だ。そのことに失望しているファンは多く、「監督は、前传は師兄弟の話だと言っていたのに」「詐欺師」と、監督を非難する声も少なくない。
そうしたファンの反応は、監督は充分予想していただろう。それでもあえてガラッと主要キャストを入れ替えた。前作のキャストをそのまま引き継げば前作のファンはまず映画館に足を運ぶだろうし、ある程度固定客は確保できたはず。だがその固定客を切り捨ててまで、作品のグレードアップに踏み切ったのだーーと、私は好意的に解釈したい。というのも、一作目は作品としてはいろいろ惜しい部分もあり、完成度は決して高くなかった。だから寧浩を監製に招いた続編は、一作目を上回る作品になるのではないかと期待している。

だがその一方で、なんともいえないもやもや感が残る。冒頭にも書いたように、苦労してなんとかW杯の出場権を勝ち取った弱小チームが、本大会ではがらっとメンバーが入れ替わっていた、あのもやもや感に似ている。一作目の出演俳優たちは、ほぼ無名の青年監督の低予算映画にもかかわらず、脚本の良さや、スタッフの情熱に惹かれて出演したのだ。それが高評価を得て、前作より資金が大幅にアップした続編には、前作のキャストはほとんど呼ばれず、かわりに人気のスター女優が出演する。もやもやするけど、発表されたポスターがカッコいいのでやっぱり期待してしまう。劇画調で、青年コミックの単行本の表紙にも見える。

よく見ると、飛魚服のデザインが前作とは変わっている。実際に映画でもこのデザインだったら、飛魚服もグレードアップということになる。

撮影開始は4月3日から。公開は来年になる見込み。もし中国でヒットしたら、日本でも前回のようなミニシアターではなく、ロードショー公開される見込みがあるかも。
web拍手 by FC2
COMMENT









Trackback URL
http://still-crazy.jugem.jp/trackback/339
TRACKBACK
TweetsWind